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悪の道に堕ちた武術家ハンが主催する武術トーナメントを舞台に、妹の復讐に燃える武術家リーの闘いを描いたカンフーアクション。
リーにぶちのめされるハンの手下を演じているのは無名時代の、後のレジェンド俳優ジャッキー・チェン。
2025年6月、映画史にその名を刻む名作曲家ラロ・シフリンが死去。ぶっちゃけ亡くなった事への悲しみよりも「まだ生きてたのかよっ!?」という驚きの方が強かったが、シフリン追悼企画としてこの映画を鑑賞。
伝説の男ブルース・リーの実質的遺作。リーの死の直後に公開されたと言う事もあり、世界中で爆発的ヒットを記録。85万ドルの予算に対し、興行収入は4億ドルにも達すると言われており、これは現在の価値にして約20億ドルに相当する。予算の400倍以上を稼ぎ出した本作は、今なお史上最も興行的に成功した映画の一つに数えられている。
ブルース・リー主演作としては本作が4本目となるが、実は日本ではこれが最初に封切られた作品である。日本でブルース・リーが大々的に紹介された時には彼はもう故人だった訳だが、それが逆に彼の神話性を高めたといえるだろう。
ブルース・リーは今作を遺して此岸から去って行ったが、彼の思想と功夫は忘れられる事なく、今なお映画・ゲーム・マンガ・アニメなどあらゆるジャンルにその影響を与えている。
「史上最も偉大なカンフー映画」として語られる事の多い本作。確かに後世に与えた影響は他作品に水をあけるだろうが、作品の出来としては褒められたものではないと思う。…ズバリ、ブルース・リーの見せ場が少な過ぎっ!!
本作におけるリーのカンフーシーンは、大きく分けて4ヶ所。①冒頭、若きサモ・ハンとのスパーリング②中盤、妹の仇討ちであるオハラ戦③終盤、あらゆる武器を駆使しての大乱闘④クライマックス、鏡の間でのハンとのラストバトル。
この4ヶ所以外、本作には特にこれといった見せ場はない。
100分少々の映画で4ヶ所も見所があれば十分という見方も出来るが、①はあくまでスパーリングであり、②は因縁の対決といえども実力に差がありすぎるためイマイチ迫力に欠ける。1番大切な筈の④も、ハンを演じている俳優さんがあまりにもおじさんな為、いくら片手が仕込み武器になっているとはいえ全くリーのアクションの力強さと釣り合いが取れておらず、まるで盛り上がらない。結局のところ、本当に「おおっ!」と思えるポイントは③の1ヶ所しかないのである。
なぜこうなってしまったのか、それには2つの原因が考えられる。
1つはブルース・リーの体調の悪化。本作の撮影時には、すでにリーの病状はかなりの段階まで進んでいたと言われている。極度の頭痛に悩まされており、何度も撮影は中断されていたのだとか。そのため、前作『ドラゴンへの道』(1972)の様なブルース・リーのワンマンショーを展開する事が出来なかったのではないだろうか。
本作はリーの他に、白人格闘家のローパーと黒人格闘家のウィリアムスも主役級の扱いを受けているが、この群像劇的なストーリーはリーの出番を極力減らすための苦肉の策だったのかもしれない。
2つ目は、本作の製作にワーナー・ブラザースが絡んで来たため。
前作まではゴールデン・ハーベストやリー本人が設立したコンコルド・プロダクションなどといった香港の映画会社が製作していたが、今作はハリウッド大手であるワーナーとの合同製作体制を取っている。
当時はまだ(というかあまり今も変わっていないが)アジア人がハリウッド映画の主役を張るというのは考えられない時代。いくらあのブルース・リーといえどもそれは例外ではなく、脚本段階ではリーではなくローパーが主人公だったというなんだかなぁな逸話も残されている。
リーが脚本をリライトした事によりなんとかブルース・リー映画としての体面は保たれたが、最初からコンコルド・プロダクションが単独で製作していれば、この様な混乱は起こらず、作品としてのクオリティはより高いものになっていた事だろう。
カンフー映画でありながら、ところどころにスパイ映画感があるのもワーナーの意向なのだろうか。敵役の造詣や秘密基地など、『007』シリーズ(1962-)からの影響を感じずにはいられない。何故カンフー映画の音楽を『スパイ大作戦』(1966-1973)のラロ・シフリンが?と疑問に思っていたが、鑑賞してみてその謎が氷解しました。
もしもリーが長生きしていたら、この映画も『007』並の長期シリーズになっていたかも…?
カリ、棍、ヌンチャクを使った大乱闘や、“Don't think. Feeeeel!!“という歴史的名言など、これぞザ・ブルース・リーだと興奮するポイントはいくつもあったのだが、映画の総体としては今ひとつ。脚本は“Don't think. Feeeeel!!“ではなく、“Don't feeeeel. Think!!“の精神で作り上げて頂きたい。
※オリジナル版は未鑑賞なのでこのディレクターズ・カット版がそれとどう違うのかはわからないが、どうやら冒頭にあるリーと師匠が功夫について語るシーンが追加されている様だ。このバージョンは、より東洋哲学的な側面を強く押し出しているのかも知れない。