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セルダル・アカル監督による2019年製作のトルコ映画。
トルコ映画は多分初めてだが、歴史を学ぶ様なつもりで視聴。予想外に、とても良くできた人権的メッセージも有するエンタテイメント映画で、随分と楽しませてもらった。
主人公は独スパイとしてとても有名らしいキケロ。アルマニア人らしく、導入部のダウン症と思われる愛する弟を敵(明示されてないが、セルビア人か?)に、面白おかしく惨殺される様が痛ましい。そして、可愛らしく歌も上手で敵に可愛がられる中、味方に内通し敵を皆殺しにする映像が、ショッキング且つ将来を暗示しお見事。
キケロことエルダル・ベシクチオの恋愛対照となるヒロインのブルジュ・ビリジク(トルコの女優)が実に美しく魅力的。彼女は子持ちで、そのダウン症の男の子を溺愛している。その子がぐずり、おうち訪問になってしまう最初のデートで、キケロがその子と仲良くなる展開に、最初のエピソードが効果的に効いている。また英独機関のそれぞれの内通者として、お互い全く知らないまま出会う展開も、大いに楽しめる。とても上手い脚本だ。
ドイツ軍は障害者の子供を集めて処刑していた訳だが、その網にビジリクの子供もかかり、大勢の中の一人としてバスで処刑場に運ばれる。バスの中で大勢の障害児(よくこれだけ集めたものだと驚愕)が歌を歌って楽しそうに過ごす姿が何とも痛ましい。勿論、ガス室で死ぬ寸前二人により助けられるのだが、改めてナチス思想の酷さ非情さが印象づけられた。ガス室への移動や着替え等、このエピソードはとても丁寧に描かれており、アルマニア人虐殺へのオスマントルコ政府関与も含めて、製作者の人権問題への強いメッセージ性が感じられた。
最後、歴史的事実とは認められていない様ではあるが、金銭目的のドイツスパイとして振る舞っていたキケロが、実はトルコのスパイであったことが明かされる。大どんでん返しで、爽快感が満載。ドイツ軍がキケロによりノルマンディー上陸作戦等で偽情報をつかませられていたことは史実なので、出鱈目とは言い切れない説得力も有り。
製作ムスタファ・ウスル、脚本グルカン・タンヤ、撮影ペーター・ステウガー、音楽オヌール・オズメン。
出演はエルダル・ベシクチオ、ブルジュ・ビリジク、ムラート・ガリバガオグル。