劇場公開日 2021年8月20日

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「難はあってもいいが、邦画らしさというアイデンティティは大切にして欲しい」ドライブ・マイ・カー みかずきさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5難はあってもいいが、邦画らしさというアイデンティティは大切にして欲しい

2022年4月16日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

知的

難しい

世界を席巻した作品、原作の村上春樹小説、との相性は悪いので覚悟して鑑賞した。曖昧で分かり難いシーンが少なからずある、捉え難い、感情移入し難い作品ではあるが、喪失と再生という普遍的テーマは明確であり、メインキャストである西島秀俊と三浦透子の抑制の効いた演技と二人の会話劇のクオリティーが非常に高い作品である。

本作の主人公は、舞台俳優兼演出家の家福俊介(西島秀俊)。彼は妻の音(霧島れいか)がある秘密を残して突然死し、妻への喪失感を抱えながら生きていた。2年後、彼は、演劇祭の演出を依頼され愛車で広島に向かう。そこで、彼は寡黙で影のある愛車の専属ドライバーとして雇われた渡利みさき(三浦透子)と出会い、彼女と時間を共有し会話を重ねる中で、今まで避けてきたあることに気付いていく・・・。

主人公は妻の秘密を知っても妻への優しさを変えない。妻を問い詰めない。何故なのか。みさき、演劇祭の舞台劇のキャスト・高槻(岡田将生)との会話を通して、主人公の優しさの奥にある本心が喪失感という呪縛から解放され明らかになる。そして、主人公は喪失感から抜け出し再生するためには何が必要かに気付く。みさきも喪失感を抱えて生きていたが、主人公との会話のなかで再生への切っ掛けを見出していく。この部分は、会話劇中心であり、邦画らしい繊細さ、緻密さを感じる。

本作は、広島の演劇祭での手話を含めた多言語舞台劇で、多様化する世界を作品に反映しようとしている。試みは面白いが、多国籍映画のようで邦画らしさが希薄になっている感は否めない。世界的評価云々の前に、邦画らしさというアイデンティティを大切にして欲しい。韓国映画らしいパラサイトが好例だろう。

ラストシーン。みさきの清々しい表情が印象的であり、希望という言葉が相応しい幕切れだった。

本作は、生易しい作品ではないが、喪失と再生という人間にとって避けては生きられない普遍的テーマに真摯に向き合った作品である。

みかずき
琥珀糖さんのコメント
2022年8月10日

今日は。
いつもコメントありがとうございます。
3時間のこの作品。
覚悟を決めて観はじめたら、意外とごくごくと飲める水のような
心地よい映画でした。
私も村上春樹はかなり苦手ですが、ちょっと軒先を借りて、
完璧リノベーションした作品でしたね。
(多言語の舞台演出には、私もやや違和感を覚えました)

琥珀糖
シネマディクトさんのコメント
2022年8月10日

みかずきさん、こんにちは。シネマディクトです。こちらこそ、よろしくお願いします。キネ旬への投稿,すごいですね。改めて自分のレビューを読んだら、分かりにくい表現でお恥ずかしい限りです。貴レビューの『喪失と再生』でシンプルに表現でき勉強になりました。またレビュー上でお会いしましょう。

シネマディクト
2022年6月2日

ラストシーンのみさきの清々しい表情
希望がある幕切れ
とても、瑞々しく
表現されていて、感心しました。また、どうぞよろしくお願いします!😆
観た映画でも、レビュー投稿してないですが、また、レビュー拝見させてください。

美紅
2022年6月2日

みかずきさん、
コメントありがとうございました。

美紅
くりさんのコメント
2022年4月30日

みかずきさん
こんにちは。
作品の本質を捉えたレビューで理解の参考にさせてもらってます。そうですね。本作の再生への描写が見事と思いました。

くり
ぱおうさんのコメント
2022年4月24日

みかずきさん、こんにちは。
地元では、今日が劇場公開最後の日曜日でしたので、何とか3時間枠を確保して潜り込みました。
みかずきさんのレビューは、鑑賞後、自分のレビュー投稿後に拝見したのですが、みかずきさんの方がわずかに評価が辛かったくらいで、感じたことは似ていました。
第一に、村上春樹氏作品は私も「相性が悪い」」です。
巷で流行った世代の人間ではあるのですが……。
本作は、劇場予告を見て、地味そうなのがかえって興味を呼んだのです。
第二に、「多国籍映画のようで、邦画らしさが希薄になっている」というご指摘には、大いに共感しました。私の好みの傾向には、「長尺好き」「地味好き」な面もあり、「切なハッピー」ぽい味わいもありますので、本作は結構気に入ったのですが、あの多国籍演出には馴染めませんでした。
もちろん、この方が好みに合う人がアカデミー賞の審査員をするような玄人筋には多いのかもしれません。
私は映画は観るけれど舞台劇は好まないのですが、それは、人生で数回しか行かなかった舞台劇で、何やらひねった演出に首を傾げたくなることばかりあったのが理由です。
今回は、作品そのものへの評価は微妙に分かれましたが、気になったポイントはそっくりで興味深かったです。
これからも、みかずきさんの作品評価は、未見作品で劇場に足を運ぶか迷った時には大いに参考にさせて頂きます。
ありがとうございました。

ぱおう
グレシャムの法則さんのコメント
2022年4月20日

みかずきさん
過去の拙レビューをたくさんお読みいただいたうえに、共感クリックまで…。
ありがとうございます。
実は、私が邦画を見始めたのはこのサイトで他の皆さまの素敵なレビューを拝見するようになってからなのです。
(その割に偉そうなこと言ってるな、と叱られそうですが😅)
洋邦問わず、まだまだ勉強中なので、これからも色々と拝読させていただくのが楽しみです。よろしくお願いします。

グレシャムの法則
あささんのコメント
2022年4月19日

みかずきさん、コメントありがとうございます!
素敵なレビュー😊私も同感です。

たしかに、多言語劇では多様性を表現してだけど、一気に邦画色は薄れますよね。そして、会話劇は本当に繊細でした(特に後部座席での)。

またコメントさせていただきます!

あさ