分断の歴史 朝鮮半島100年の記憶 : 映画評論・批評
2021年5月11日更新
2021年1月9日よりシアター・イメージフォーラムほかにてロードショー
朝鮮半島の激動を、極めてニュートラルな視点で描く逸品
これは相当に珍しいドキュメンタリーです。韓国と北朝鮮の両国における映像が、偏らずに使用されており、かつ、両国の政府関係者や要人のインタビューも極めてニュートラルなスタンスで、実に公平に採用されているからです。「北の独裁体制こそ悪者だ」「南の親米政権こそ打倒されるべき」などのイデオロギーから完全にフリー。現在の朝鮮半島問題は、アメリカや日本にこそ根源的な原因があるというメッセージも透けて見えます。
ナレーションが英語なので、ちょっと反北朝鮮目線にミスリードされますが、製作はフランスのスタジオ、監督もフランス人。実に中立で、斬新なコリア案件だなと驚きました。映像もきちんと作り込まれていて好印象です。過去フッテージは、北朝鮮のものもふんだんに使われています。本作にも度々登場する北朝鮮記録映像監督のリ・トンソプ氏が全面的に協力してくれた結果だと思われます。インタビューカットも構図が工夫されていて、人物は画面の右か左にオフセット、生まれたスペースには絵画や静物などを配置するなど、フランス人監督ならではの感性がそこかしこに見られます。画づくりのレベルが凡百のドキュメンタリーとは段違い。
それにしても朝鮮半島の歴史は、改めてふり返ってみても非常に特殊です。この映画では、1945年の日本の敗戦によって、朝鮮半島が自由になった後の75年が、時系列に、美しく整理されて提示されています。
38度線の由来は、ソウル市をアメリカ側に確保したいという米外交官の思惑で、北緯38度付近に国境線が引かれたのだとか、金日成と朴正煕が、同じ時代に満州(日本統治下)に行ってたとか、マッカーサーが中朝国境付近に原爆投下を企て、トルーマン大統領に却下されていたとか、「なるほど、そうだったのか」と思わせるエピソードの連続です。
とりわけ驚かされるのは、現在こそ北朝鮮は経済的に困窮していると見なされていますが、1950年代後半の同国の躍進は経済的奇跡と称され、世界一の工業成長率だったこと。この時点で韓国はまだ貧しく、1975年までは北朝鮮のGNPが韓国を上回っていたと。
さて、韓国および北朝鮮の首脳たち、いや国民たちの悲願は「南北統一」で間違いないですが、統一に向けたさまざまな努力もまたこの映画では存分に描かれています。
2000年に金大中と金正日が南北首脳会談を行った際、金正日がジョークを連発して、韓国に「金正日シンドローム」を現出したというのは興味深かった。満面の笑みで金大中と握手する金正日の表情がラブリーです。できれば、彼のジョークも詳しく紹介して欲しかった。思えば、この2000年あたりが「統一実現」にもっとも近づいた瞬間でしたね。その後、9・11を経たブッシュ大統領(息子)が、北朝鮮を「悪の枢軸」と見なしたことで、金大中の太陽政策は頓挫してしまいます。その辺りの事情は、全部この映画から学ぶことができます。
それにしても「南北統一」は実現するのでしょうか? 映画の中でも言及されていますが、今年(2021年)の4月、ソウル市は2032年のオリンピックを平壌と共同開催する案をIOCに提出しています。IOCは「平壌も承認している案なのか?」と懸念を表明していますが、平壌のリアクションも気になりますね。成り行きが楽しみです。
【本作は、シネマ映画.comで配信中です!】
(駒井尚文)