83歳のやさしいスパイ : 特集
素人の83歳おじいちゃんが、老人ホームでスパイ活動!?
型破りな設定に笑い、人間の温かさと人生の重さに
涙する全世代必見の“ドキュメンタリー”
話題の映画を月会費なしで自宅でいち早く鑑賞できるVODサービス「シネマ映画.com」。今回ご紹介する「83歳のやさしいスパイ」は、7月9日からの劇場公開前に、7月2日から4日の3日間限定、特別割引価格で先行独占配信されるプレミアムな1作です。
第93回アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞にノミネートされた本作は、チリの老人ホームの内定のため入居者として潜入した83歳の男性セルヒオの調査活動を通して、ホームの入居者たちのさまざまな人生模様が浮かび上がる様子を描いたドキュメンタリー。
なんと、舞台となった老人ホームの許可を得て、スパイとは明かさずに3カ月撮影されたということですから驚きです。主人公のセルヒオは83歳の“素人のおじいちゃん”。いったいどんな報告が待ち受けるのでしょうか? 作品の見どころを、作品選定メンバーが語り合いました。
「83歳のやさしいスパイ」(2019年/マイテ・アルベルディ監督/89分/チリ、アメリカ、ドイツ、オランダ、スペイン)
<あらすじ>妻を亡くして新たな生きがいを探していた83歳のセルヒオは、80~90歳の男性が条件という探偵事務所の求人に応募する。その業務内容はある老人ホームの内定調査で、依頼人はホームに入居している母が虐待されているのではないかという疑念を抱いていた。スパイとしてホームに入居したセルヒオは、調査を行うかたわら、いつしか入居者たちの良き相談相手となっていく。
座談会参加メンバー
駒井尚文(映画.com編集長)、和田隆、荒木理絵、今田カミーユ
ポイント①:設定が抜群に面白いドキュメンタリー
和田隆 老人ホームへの潜入が任務という人生初のスパイと張り切る83歳のセルヒオさんを追ったものですが、駒井さんはいち早く絶賛されていましたね。導入はまるでフィクションのドラマのようでした。
駒井編集長 はい、設定が抜群に面白いですね。老人ホームに公募の老人エージェントが潜入するという。「80歳以上を募集する求人」というのがまず珍しい。そして、応募がワンサカ来ちゃうというのがまた面白い。しかし「スマホ使いこなす必要あり」って条件でみんな落ちちゃうというね。
荒木理絵 本当に公募したんですよね? 「俺は若い!まだまだやれる!」とヤル気満々な老人たちの面接風景から始まります。みんな気持ちは若いけど、ガジェットの扱いに疎いです(笑)。「Wi-Fiは自宅にあるぜ!俺には必要ないから使わないけどね!」みたいな。
今田カミーユ あの小さいiPhoneはお年寄りが扱うにはちょっと大変そうでしたが、セルヒオさん、本物の俳優さんのようにダンディで穏やかで素敵でしたね。オーディションでの決め手を監督に聞きたいですね。
駒井編集長 老人スパイがスマホ使いこなせなくて、これじゃ映画として成立できないだろうと思わせる導入でしたが、ちゃんとクルーが施設側と撮影するって話をつけていたので安心しました。
和田 そこが肝ですよね。
ポイント②:主役・セルヒオさんがやたらチャーミング
荒木 セルヒオさんが本当に素敵です。彼の優しい人柄があったからこそ、ホームの方々も心を開いたんでしょうね。みんなの人気者になってたし! 眼鏡型スパイカメラもちゃんと使いこなしてて、見てる側も応援したくなるほど一生懸命頑張ってます。
駒井編集長 セルヒオさん、スーパーエージェントでしたね。施設の女子たちのハートをわしづかみ!
和田 この作品を魅力的にしているのは、なんといってもセルヒオさんの人柄ですよね。おばあさんのセルヒオへの淡い恋心には胸がキュンとなりました。彼は自分の家族にも愛されていましたね。
今田 そして、やはり女性の方が長生きでお元気なんだなあと、ホームの実態を見て勉強になりました。
駒井編集長 実は私も、親の介護の準備のために、老人ホームを見学したことがあります。男女比は7:3~8:2で女性が多いんです。だから、男性が入るとやたらモテるらしいですよ。
今田 若い頃にチャンスがなかった男性も、健康に気を付けて長生きすれば、素敵な冥途のみやげ経験ができるということですね……。
駒井編集長 人生の最終盤にモテ期が待ってるかも。
今田 最高のモテ期で終わる人生も素敵ですし、セルヒオさんが今でも(亡くなった)妻を愛していると言うのも女性からの好感度爆上がりです。
駒井編集長 セルヒオさんにデート申し込もうか迷ってるおばあちゃん、女子中学生みたいでした。
荒木 一方で、「ママが迎えに来るの」と言って孤独に待ち続ける、子ども返りした女性もいたりして……。人生の終盤、寂しげな一面も映していますよね。
今田 女性たちの人生模様にもそれぞれの重みがあり、グッときましたね。
ポイント③:ドキュメンタリーとしての構造も非常にユニーク
駒井編集長 この映画は、少し前にシネマ映画comでもけっこう売れた「SNS 少女たちの10日間」とまったく同じ構造のドキュメンタリーですね。オーディションやって、選ばれた者が施設に行き、カメラがそのミッションに密着する。
荒木 外野からは見えない「当事者」の風景を覗き見る、という感覚があってとても面白いです。誰もすぐに老人にはなれないですから。
駒井編集長 設定だけは、製作側が用意するが、その先は何が起こるか分からないところが面白い。
和田 この「83歳のやさしいスパイ」は、いわゆる「演出」ってどれくらい入っていたと皆さん思いますか?
今田 制作陣と施設との連携はしっかりとれていそうなので、職員の方たちは演じているという意識はあったのかもと思いました。
和田 なるほど!
駒井編集長 私はあんまり演出は感じませんでしたね。老人たちに演技を要求するのは至難の業かなと。ただ、施設側とはどういう経緯で撮影クルーが入ると交渉したのか興味あります。
和田 ホーム内で虐待や盗難があるか調査するのがセルヒオさんのミッションでしたしね。
荒木 セルヒオさん、本気でミッションに取り組んでましたしね、あそこまでヤル気にさせるのもすごいです。
駒井編集長 セルヒオさんが入所した冒頭、ターゲット(依頼人の母親)が分からなくて、施設中を探し回ってそれを特定することからスタートというのが最高に楽しかったですね。
今田 あのスタートは本当に面白いですね。同時に認知症のような高齢者ならではの問題についても考えさせられました。家族や自分にとってもリアルなことだなあと。
和田 老人たちの孤独な現実が浮かび上がってきて切なくなりますが、一方でコメディチックな要素もあるから重くならずに見れますよね。
荒木 「SNS 少女たちの10日間」と同じように、登場人物たちがきちんとケアされているので、安心して見てほしいですね。誰かを不当に騙したり、不誠実なことは起こらないので、そこも素晴らしいです。
ポイント④:自分の老後に思いを馳せる鑑賞後感
駒井編集長 この映画は、ドラマにリメイクできるドキュメンタリーだと思いました。相当珍しい案件です。日本だったら、セルヒオをビートたけしがやって、とか。いろいろ妄想が膨らみます。吉永小百合が誰々の役で、とか。
和田 いいですね、企画書つくりましょうか(笑)。
今田 老人ホームを舞台にした昼のドラマ「やすらぎの郷」も人気でしたからね。
和田 若者にとっては老後なんてまだ先のことかもしれませんが、年配者だけでなく、幅広い層に見て欲しい作品ですよね。
駒井編集長 若い人には、親の介護のリサーチになりますよね。
今田 撮影されていることに気付いているけれど、意に介さない穏やかなおばあちゃんたちの姿が最高にかわいくて、癒されました。私も正直、人生ショートカットして早くおばあちゃんになりたいなと思ってしまいました。
荒木 老後の人生ってどんなだろうと、考えるヒントになると思います。ホームで楽しそうに過ごしているおばあちゃんたちを見ると、心温まりますよね……。
和田 ホームに入ると男性はモテるかもしれないということでも、老後に希望が湧いてくる作品ですww
駒井編集長 セルヒオ的な好人物を、老人ホーム側のコストで2~3カ月雇うとか、そういうのも考えてほしいですね。
今田 女性たちにとっての推しアイドル的存在ですからね。
荒木 ぜひ1カ月に一度、握手会など実施してほしいですね。実際、女性たちは彼のおかげでイキイキしてましたよね……。
今田 いくつになっても、恋心に似た心のときめきが元気と長生きの秘訣なんでしょうね。
和田 ですね、そうなると、この設定のおばあちゃんスパイ版もなんだか見たくなってきましたww