劇場公開日 2021年5月27日

「「そこにいるのが悪い」ごっこが流行するかも」クルエラ 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

2.5「そこにいるのが悪い」ごっこが流行するかも

2021年6月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 ジャンルのわかりにくい作品である。おおよそはコメディだと思うが、それにしてはシリアスな場面が多いし、笑えるシーンがそんなに沢山はない。観るべきところはエマ・ストーンとエマ・トンプソンの怪演だけだ。それほど面白い作品ではないと思う。
 それにしても「ハリー・ポッター」シリーズで分厚い丸メガネとカーリーヘアで真面目なシビル先生を演じたエマ・トンプソンが、本作では冷酷で底意地の悪い独裁者バロネスを演じるとは、流石に女優は凄い。
 エマ・ストーンの演じたクルエラ・ド・ヴィルは、悪役としては少し迫力に欠けるきらいがあったが、ディズニー・ヴィランズのひとりとして、キャラクターアイテムの販売も視野に入れているだろうから、あまり極悪非道だと困る。悪役だが中途半端に愛嬌のある人物造形にしたのは、商売人のディズニーらしい抜け目のなさだ。中途半端な役柄はかえって演じるのが難しいが、オスカー女優エマ・ストーンは、強気と弱気が混在する上に少しずつ性格が変化していくという、ややこしいクルエラを見事に演じきってみせた。凄い演技力である。

 ストーリーは単純でわかりやすい。次の展開や台詞を予想しながら鑑賞していると、これが結構当たった。つまりそれだけ退屈な作品だという訳だ。大人が鑑賞するには底が浅すぎるが、かといって子供に見せるにはどうかと思われるシーンもある。バロネスが怒りに任せて投げた椅子が従業員に当たると「そこにいるのが悪い」と言い放つシーンなど、子供が真似しやすい気がした。「そこにいるのが悪い」ごっこが流行する嫌な予感さえする。
 ディズニー映画は勧善懲悪が多い。登場人物は善玉と悪玉と普通の人の3種類で、善玉は暴力と権威によって悪玉をやっつける。つまりは水戸黄門映画である。人間は簡単に善玉と悪玉に分類できるものではないが、水戸黄門映画は人間を腸内細菌みたいに善玉と悪玉と日和見に分けてしまう。そして善玉の苦労を掘り下げる一方で、悪玉の性格を低俗な欲望の塊に単純化して、観客が善玉だけに感情移入することを強制する。
 本作品で新たに登場したバロネスも、そのうちディズニー・ヴィランズのひとりに加わって、少女時代からの来歴が紹介され、バロネスは如何にして独裁者となったのか、みたいな作品も作られるかもしれない。教育に悪い作品になりそうだ。

耶馬英彦