「パンクを着たヴィラン」クルエラ @花さんの映画レビュー(感想・評価)
パンクを着たヴィラン
ディズニーのヴィランとして悪名高いクルエラ
美に固執し、ファッションへの探求のために犬の毛皮でコートを作ろうとするアニメ版のクルエラは登場しません。
マレフィセントでガッカリしていたので、今回のクルエラも期待はしていませんでした。
映画としては十分スクリーンで見て後悔しない作品に仕上がっていると思います。
ディズニーだから家族や対象年齢が低く設定された、カッコいいよ系ヴィラン誕生物語。
舞台設定は70年代とはっきりしていて、当時のウエストマークしたファッションやその服を着こなすエマストーンとエマ・トンプソン。
登場する衣装がとても魅力的です。
残念なのは衣装の魅せ方。
カメラワークなの?演出なの?
作中でバロネスのファッションショーをことごとく潰しにかかるクルエラが登場しますが、肝心のドレスが目立ちません。
なんだろう?本当はもっと息を呑むくらいの感嘆が漏れておかしくない場面なのに、グッとこない。
衣装を映そうと引きで撮っているからなのか。
私ならこれからぶっ壊すショーに挑むクルエラのニヤッと笑う表情を挟むな〜とか、ローアングルからのカットなら幕が閉じるようにドレスの裾でバロネスの車が覆われたらいいのに。など、素人目線で演出にイチャモンをつけてしまいたくなりました。
それから、絶対に比べられてしまう
プラダを着た悪魔と言うあまりにも完成されたファッション映画
権力のある上司の下で粉骨する若手社員なんて、既視感がありすぎて新鮮味は皆無でした。
主人公エステラの出生秘話もありきたり。
途中で察してしまいます。
だって、あれだけの富豪が貧乏人の落としたネックレスを大切に首から下げたりしませんよね。
そもそもあのネックレスが見つかった時に、普通は自分の娘が生きていることに勘づくはずなのに、10年近くも野放し。
執事のマーク・ストロングが現当主のバロネスからエステラに鞍替えする理由も分かりません。
高飛車で日頃からパワハラしてくるバロネスより、美しく才能のあるエステラが当主になった方が良いと判断したのでしょうか。
ヴィランには暗い背景や複雑な生い立ちが必要だ〜と沢山盛り込んだ結果、原作にある邪悪さの抜けたファッショナブル系ヴィランが爆誕しました。
エマ・ストーンも綺麗でスタイル抜群ではありますが、演技に華がありません。
噴水でエステラとしての自分と訣別し、クルエラとして生きることを語るシーンが本作の山場のはずですが、どうもしっくりこない。
母親の存在をいつまで引きずって生きてるんだろう?
いつまも死んだ人の思いに引きずられて、自分でやりたいことを決断しているようには見えなかったのが残念です。
脚本やキャラクターの背景が薄いので、クルエラの意志の強さが際立たなかったんだと思います。
近年では自立した、意思表示や自己主張のできる女性が魅力的に映画の中に登場する時代なのに、格好ばかり粋がっている中学生のような精神年齢のクルエラ。
ディズニー映画なので、ダークな面は控えめに描かれたのかと思いますが、ヴィランとしての魅力や価値は観るものが震え上がるほどの狂気だと思うんですよね。
取り憑かれた様に一心不乱にファッションだけを求めていない。復讐の道具として自分の才能を発揮してしまったことがクルエラに魅力を感じなかった最大の理由かもしれません。
天才はいつも孤高です。
万人の理解や賞賛がなくとも、自分の美学を追求する狂気があるからこそ、おぞましい悪役の魅力が際立つ。
人が踏み外しては行けないボーダーラインを軽々しく自分の意思で飛び越えて魅せるヴィランだからこそ、カリスマ性が生まれるのではないでしょうか?