劇場公開日 2020年12月11日

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「ミニマルな生活をめざす主人公が、実家でオフィスを開くために、母や弟...」ハッピー・オールド・イヤー CBさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5ミニマルな生活をめざす主人公が、実家でオフィスを開くために、母や弟...

2021年5月5日
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鑑賞方法:映画館

ミニマルな生活をめざす主人公が、実家でオフィスを開くために、母や弟の物も含めて、実家にあふれかえる品々を捨てようとするが、ひとつひとつを捨てるたびにいろいろ考える話。

冒頭で、主人公の相談に乗っている友人が言う。「ミニマルな空間にしたいのね、いいわ、その仕事、受けるわ」 「ただ、お母さんや弟を説得できる?」 「家族の歴史を一掃した結果、家族がバラバラになってしまうことも、よくあるの」
その説得を続けながら、自分の物を捨てる過程で、他人から借りていた物も多く見つかるのは、お国柄なのだろうか。それを返しに行く過程で、友人やかっての恋人と様々な葛藤が繰り広げられるので、観ていて時間はすぐに経っていく。

「ゴミ袋はブラックホールよ。(放り込んでしまって)見えなければ、後悔もしないわ」 と言っていた主人公が、彼に借りていた物を返しに行き、過去の楽しかった日々を思い出すなんて、いかにもありそうだし、その決着はなかなかおもしろかった。
友人は言う。「あんたは何もなかったフリをする。でも、みんなは忘れないの。片方だけが忘れても、物事は終わってないのよ。両方が忘れたときに、はじめて、終わるの」

一度も謝ったことのない主人公が、物を捨てようとして、少し過去を後悔し、返却して回っているうちに、その心の中が少しづつ変わっていくというストーリーは面白い。特に後半で描かれる、父との関係、母も含めた関係がどうなるかは、けっこう見ごたえあり。

「忘れる努力をしなければ、一生、忘れられないの」
「忘れたければ、自分だけ、忘れなさい」

全てを捨て、そしてまた、歩き出す。描かれているのは、ほんとに小さな身の回りのことなのだけれど、伝えようとしているのは、壮大な再生の物語か、と考えるのは大げさすぎるだろうか・・・

2021/9/5 追記
これが、タイの新進気鋭の監督、ナワポン・タムロンラタナリットさんの作品だったか。彼の特徴をキネマ旬報から引用しておく。
① 少女の時間の有限性(清楚で儚いガーリーな魅力が満載)
② メディアへのメタ言及(映画、写真、SNSなど現代メディアに自覚的。フィクションとドキュメンタリーを行き来し、映像と文字を自在に駆使した虚実皮膜の中で、抒情的かつ詩的にテーマを語っていく)
いやあ、解説者って本当に上手く表現するもんだなあ。引用してみて、あらためて感心するわ。もちろん、監督にも感心してます。

CB