劇場公開日 2021年6月25日

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「「安易に量産されるご当地映画を吹っ飛ばす傑作」」いとみち ミラーズさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0「安易に量産されるご当地映画を吹っ飛ばす傑作」

2021年8月7日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

青森を舞台にした人見知り女子高生とメイドカフェの物語と甘く見ると驚くほど丹念に撮られた演出と主演から傍役までの生き生きとした姿を青森の風景を元に収めた映画で地域に生きた傑作。

主演の駒井蓮は長身痩躯系の女性だが、劇中で放つ津軽弁の心地よい可愛らしさに心を掴まれ、ジャガイモの皮を剥く姿やネギを刻む佇まいに魅了される。
家に帰るなり部屋で靴下を無造作に脱ぎ裸足になる姿なども地に足の付いた性格を感じさせる。(劇中では家にいる場面やラストの三味線場面でも裸足である事で素の自分を出せる演出?)

いとの家族の姿も的確に描かれていて、父親役の豊川悦司の変わらない存在感も良いが何と言っても祖母役の西川洋子がとてもいい。優しさとユーモアを自然体で表現して3人のやりとりに和む。経歴を見ると青森では有名な三味線奏者の弟子で奏演者としても一流らしい。
メイド喫茶のメンバーや優等生の友人と出番は少ないが母親達なども皆好演している。(個人的には優等生役のジョナゴールドのちょっと個性的な佇まいと硬質な演技や表情が変わる様が良かった)

監督脚本の横浜聡子は、的確な演出と構造で物語をまとめており、適当なユーモアも含めて心地よい作品に仕上げてあり過去の作品も機会が有れば見てみたい。

撮影はベテラン柳島克己が担当して風光明媚な青森市の風景と狭い部屋での凝った撮影などしていて何気ないところも随所にキレのあるカット収めていて見応えがある。

地方映画として、個人的に良かったのは、冒頭にいととすれ違うリンゴ農家の農薬散布車や祖母がおやつ代わり渡す青森名物の干し餅などの描写や祖母と玄関で話すおじさん(好演)との津軽弁での自然な会話などや三味線職人の姿をサラッと挿入していてもCM臭くなくて文化記録としての側面もある映画として好ましい。

映画のコピーにもある市井の人の姿を、女性達主体で見せてくれるのも本作の特徴だと思う。
いとの家族、メイド喫茶の子持ちの同僚葛西、いとの友人となる公共住宅に住む優等生の伊丸岡などは、片親で生活していて、その為に世間の偏見やトラウトや仕事の都合で生活に苦しんでいて裕福では無いけれど頑張る姿に危機陥ったメイド喫茶の姿もオーバーラップして物語に深みを与えて、働く女性達へエールを送っている。

気になるところは、原作の書かれた時期の問題もあるけど、メイド喫茶の描写がかなり古いイメージで、やってくる常連客もちょっと偏見入っている印象。原作だといとが住む地域はもう少し田舎で山奥だったと記憶(間違っていたらすいません)しているが、割と普通になっており、祖母ベッタリな生活で津軽弁が身についた設定だったので映画では割と普通な場所に見える。

日本映画界隈では、地方映画やご当地映画を村おこし的観点から自治体などが出資(税金や市民の募金)をしてそれを専門に請け負って映画を製作するプロダクションも存在感すると、映画批評家の柳下毅一郎氏のいくつかの著作で地方ご当地映画について書いているが、それによると大まかにテンプレ的パターンの脚本が有りそれを、適当にその地方に当てはめて作られる粗製乱造な魂のない作品が殆どであると指摘しているが、おそらく青森出身者が多くてキチンと作られている本作には当てはまらないと思う。
ちなみにお笑い芸人を多数抱えている吉本興業も地方映画祭やご当地映画市場に参入していて、自社の芸人に演出や出演をさせている。(吉本の無名で奴隷に近いタレントをタダ同然でこき使って制作していると噂されている模様)

安易に量産されるご当地映画を吹っ飛ばす傑作としても是非観る価値のある作品で、人見知りの主人公の変化と成長を、美しい夕景山を背景にしたタイトルバックでの見上げてるだけの山から、父親とも今まで以上に理解し合い互い登山する終盤場面でまたの世界の広さと知るなど描写や物語構造しっかり明確に見せてくれる。

メイド喫茶がどうなったかなどは安易に見せないのも良い。

ミラーズ