「野垂れ死の美学」ノマドランド 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)
野垂れ死の美学
現代人は物やお金では満たされない心の飢えを抱えていると言いたいのだろうか?
お金とも物よりも大事なのは「自由?」
それを求める人々を追う映画。
しかし、自由があれば金は要らない・・・そんな綺麗事とは異なる。
囚われない生き方をする人々、を指す言葉がノマド。
ノマドは「遊牧民」や「放浪者」のこと。
そんなノマドの集団がいるところが「ノマドランド」
彼らは自由や気ままと引き換えに、リスクを買う。
冬場の寒さ、
女ひとりの危険、
そして何より病気や怪我のリスク。
ノマドは高齢化が進んでいると言う。
この映画には、実際にノマドの人々が実名で出演している。
彼らは自分を恥じてはいない・・・
仲間と助け合い自由を、遊牧の民を満喫しているかに見える。
ノマドは「ホームレス」ではなくて、「ハウスレス」、だとのこと。
ファーン(フランシス・マクドーマンド)の矜持が「ハウスレス」という言葉にこもっている。
誇り高き貧乏人の、
高齢者の、
自由人の、
世捨て人。
たとえ荒野の真ん中で野垂れ死しようと、なんの文句が有ろう!
それは正に、幸福な大往生!
ノマドは物質文明を否定しているとともに、
そして資本主義社会から置き去りにされた人々・・・と言う両面を持つ。
時に虚(うつろ)な瞳のファーン。
特に最初のシーンはとてもみじめで辛い。
カサカサの肌、自分で刈った薄毛のベリーショート。
未亡人のファーンはネバダ州の片田舎エンパイアで夫と暮らしていた。
リーマンショックで工場は倒産して、町は郵便番号さえ抹消される。
家を失ったファーンは全財産をキャンピングカーに詰め込み、長距離移動しつつ季節労働者として働く境遇になる。
Amazonの季節労働者。
移動しながら生活のためにする仕事の多くは、
トイレ掃除やゴミ拾いなどの雑役。
正直言って、私は彼らから「誇り」を差し引きしたら、
「不安」「貧乏」「病の危険」
もっと言えば「命の危険」さえ感じてしまう。
この映画は高い評価を受けた。
アカデミー賞作品賞、監督賞、そしてマクドーマンドは2回目の主演女優賞を受賞した。
監督のクロエ・ジャオは有色人種(中国人)の女性として初の監督賞を受賞した。
(原作は「ノマド 漂流する高齢労働者」を元にしている。)
スタインベックの「怒りの葡萄」の中にあった強い憤り。
人々の心の底にあった虐げられた者の怒りは、ファーンには、ほとんど感じられない。
達観。諦め。
流されて辿るアメリカのだだっ広いハイウェイ。
彼らは「ノマド・・・遊牧民」
自由と引き換えにした生き様は、
土に還ること、野ざらし。
風葬や鳥葬に似ている。
過去鑑賞
インタビューを読みました。
社会問題 安価な労働力
これが取材のポイントだったのですね。
ノンフィクションとフィクションのハイブリッド
映画には流れが必要です。
それを主人公の人生に乗せたのがこの作品ですね。
しかし安価な労働力というダブルスタンダードをもう少し取り入れてほしかったように思います。
ただ
アメリカは、アメリカのすべての資産の51%を0,1%の富裕層が持ってしまっていることで、そこに踏み込むことは不可能なのかもしれませんね。
なるほど~ そうでしたか。
中国の純文学
中国人が見たリーマンショック時のアメリカの実態
否応なしという力に対する生き方の選択
それが何なのか?
自分はいったい何を求めているのか?
ファンが徐々に理解していく物語なのですね。
強盗など危険な目に合う設定をしないでそれを表現したのでしょう。
新しい日常への移行
従来の日常にも、答えはなかったということなのでしょうね。
いつもありがとうございます。
さて、
最近のアメリカ人は邦画に影響されているのでしょうか?
この作品は非常にアメリカ人的発想ではないような気がします。
ある一定数はいるトレーラーハウス生活者ですが、従来のアメリカンは彼らを顧みることなどなかったように思います。
まして、そこに答えなどないならば、なおさらでしょう。
ファンの選択も従来の概念ではありえません。
それとも当時のヒッピーたちにはそんな概念があったのでしょうか?
答えなどないのが人生
この作品にはそんなニュアンスが含まれています。
ガレージ倉庫に残しておいたものをすべて処分したのは、ファンが覚悟を決めた証でしょう。
いったい何の覚悟を決めたのでしょか?
ひとつはもう戻ってこないということでしょう。
しかし、
どうせ答えなどないのですから、思った道を進むのが彼女らしさだったのでしょう。
目の前に道があり、行ける場所があれば行くだけなのかもしれませんね。
彼女はもう答えなど求めなくなったのかもしれませんね。
レビュータイトルについて教えて下さい。
野垂れ死は死に様です。
本作は、現代のノマド達の生き様を描いています。
となると、レビュータイトルは、
野垂れ死という死に様を覚悟した現代のノマド達の生き方の美学
という意味ですか?
ー以上ー
こちらのノマドランドも観に行きました。
旅をしながらキャンピングカーで生活していく女性、不安定な心情が感じられました。主演の女性の周りにいた人達が俳優ではない一般の方がいたことを後に知りました。