「フランシス・マクドーマンドの執念が見える演技」ノマドランド でゑさんの映画レビュー(感想・評価)
フランシス・マクドーマンドの執念が見える演技
映画自体はとてもあっさりしていて余計な演出とかも無く
まるで他人の日記を見てるかの様な素っ気ない進行。
だから人によってはこの映画を退屈と見る人もいるだろうし
なんの起伏も無い映画なんて酷評をつける人もいるだろう。
ただ見る人がある程度の高年齢になると誰の身にも起きる問題を淡々と描いているので
結構グッとくる瞬間がある。
その問題とはズバリ「老いと孤独」である。
この主演女優のフランシス・マクドーマンドという人は大したものだと思う。
職業意識の塊の様な人だと思った。
1番ドキリとしたのは冒頭の荒野での放尿シーンと
劇途中でフルートを吹いていると突然差し込みがして
車の中で排泄するシーンがある。
この排泄するシーンと言うのは誰にも見せたくないものである。
それを此処では2回も行ったのはキチンと理由があって
実際に老人介護をしたりその現場を見れば分かるけど
高齢者にとって排泄と言うのは付き物の問題で
それを描きたかったのだろうと思う。
排泄シーンだからどんなグロテスクなものなんだろうと思うかもしれないが
実際はうらぶれて悲しみが伴うものだ。
元々この映画の権利を持っていたのはこのマクドーマンドと言う女優さんらしい。
それで監督を誰にするかでこのクロエ・ジャオ監督を選んだと言う。
恐らくこの排泄シーンを撮ろうと最初に言い出したのはこのマクドーマンドであろう。
何故なら他人が貴方の排泄シーンを撮ろうと言っても
普通女優さんがOKする筈はないからだ。
それだけ彼女の作品に対する意気込みが凄い。
またこの作品で出てくる彼女の髪型だが
とても美容師に頼んだとは思えない所謂「虎刈り」に近いショートヘアだった。
もしかしたら自分で髪を本当に切っているのかもしれず
もし本当にそうなら女優と言う仕事の重みを非常に感じる。
映画自体は淡々と進むのだけれど
その各々のシーンに込められたメッセージの重さが凄い。
この映画の主人公ファーンと絡む各々の出演者との絡みがあるが
彼らにのちのち待っているのは「孤独な死」である。
その死の瞬間を各々が1人1人孤独に向かっている。
でも毎日そんな重い事ばかり考えていられないから
たまには仲間と寄り添って孤独を癒すときもある。
でも最後は結局は1人で「孤独と死」に必死で向かいあってる。
この部分に孤独な高齢者は身につまされそうになるだろうが
途中仲間の1人に一緒にうちの家族と暮らそうと誘われたが結局それもファーンは断る。
え?なんで?孤独から逃げられるのに、と思うかもしれない。
ただやっぱり孤独とは言えど反面気楽だと言う事実もある。
毎日大変だけど大自然が自分の目の前にはあると言う慰めもあって
結局今まで通り孤独を選ぶと言うのも分かる。
孤独を自ら選んでいると言う面も確かにあるのだ。
特にドラマチックに描かれるわけでもなく
淡々と物語が進行するから
掴みどころが無い様に感じるかもしれない。
でも実際に自分がジジイ、ババアの世代になれば
じんわりと胸に迫ってくる様に思う。
映画自体に派手さは無いから一見分かりづらいところがあるけど
まるでスルメの様に噛めば噛むほど味わいが増す。
渋い良い映画でした。