「喪失状態にある人の旅」ノマドランド はなもさんの映画レビュー(感想・評価)
喪失状態にある人の旅
今の時代だからこその映画なんだろうなぁ。
雄大な風景、ことに夕焼けの映像は美しかった、とても寒そうな荒野の雪景色、荒涼とした大地、川での沐浴、野尿、バケツへの排泄、ノマドと呼ばれる人がたくさんいることがわかった。
でも映画としては、何を伝えたかったのかが分かりにくかったけれど、私は、
「喪失状態にある人の旅」として捉えた。
長年暮らして来た町が、無くなってしまう‥まるでツナミが来たように。ツナミならば、自分の目の前からモノは消え失せるのだが、それとは違う。モノは有るのに其処に留まれない不合理さがある。しかも主人公は、唯一の家族であった夫さえも病気で亡くしている。それは、「安心出来る居場所」が無くなった事に等しい。
社宅に住んでいたというのだから、ある程度のコミュニティがあったはずだが、そう思わせる部分はない。
ファーンは、より自分が居心地良い状況に身を置く人ってことだと思った。だから群れない。それが一番自分らしく落ち着き、自分の人生を引き受け、孤独な人ではなく、孤高の人なのかも。
夫のいない家は、彼女の居場所ではなく、新しく自分の人生の居場所を構築していくための放浪、夫と出会う前の自分、つまり元の一人になるってことだけだ、昔よりもだいぶ歳取ったが‥。
全てを解き放って、自分らしくって事は、ある意味、何かを手放すって事なのだとも思う。
でも、これが、何故アカデミー?
私には、あんまり響いてこなかったな。
コロナ禍で全世界の人が何らかの喪失感を感じたので、この映画は今の時代にすごく響くのでしょう。人が完全に死ぬということは誰からの記憶の中にその人がいなくなることであると本で読んだことがあります。主人公の生き方はサヨナラがない人生、その人がいつまでも旅と共に記憶にとどまる生き方。
彼女の旅が終わらんことを祈るばかりです。良い映画を!!