「生き方のバイブル」ノマドランド 映画野郎officialさんの映画レビュー(感想・評価)
生き方のバイブル
タイトルから流行りの「ノマド」や「ミニマリスト」の話に思われがちだが、ノマドライフを称賛するだけの映画ではない。ミニマルな暮らしも資本主義経済どちらの良さも描かれている。決して文明や文化を否定しているわけではないのだ。その立ち位置がこの作品が評価される所以ではないだろうか。
車生活をしながらAmazonの工場で働く人たち。大量生産大量消費、大規模流通の経済や、華やかな商業施設も登場し、その狭間で揺れ動く心情を映しながらそのギャップを表現している。
ただどちらにせよ、人生において最も価値あるものは「時間」であるということだ。そのすべての人に平等に与えられた時間で何をするのか。
牧歌的な暮らしが心地いい人もいれば暇な人もいるだろう。文明の発展で楽しさの恩恵を享受している人は多い。「映画」だってそうだ。
どちらが正しい、優劣の問題ではなく、とにかくやりたいことをやった方がいいと思う。いつ死ぬか分からない限られた人生なのだから。
人は誰しも、生物はみな、いつかは必ず滅び自然に還っていく。排泄物やうがいした水、切った髪の毛などを道端の土の上にそのまま捨てている姿が、コンクリートとモラルに囲まれた今の世の中の規範を皮肉っているようだった。人間だって生態系の一部だ。
でも肉体は消えても思い出は残り続ける。語り継いでいくことでその人を長生きさせることができ、それがなによりの供養になる。
現代は貨幣経済の歯車の一部で止まると生きていけないサイクルに巻き込まれている。当たり前のことだが、働くために生きているのではなく、生きるために働いている。
でも一方で、働くこと=誰かの役に立つことは大事なことで生き甲斐でもある。
貨幣だけに踊らされず、その先の付加価値の交換と幸せの総和が重要なのだ。無駄な物や欲を持たずシンプルに生きることは幸せへの一歩だと信じている。
この映画を観たすべての人にムヒカの言葉を送りたい。
「あなたがもし何かを買うとき、それはお金で買っているのではないのです。そのお金を稼ぐために費やさなければならなかった人生の一部の時間で払っているのです。」
多様な生き方が認められはじめているいま、これからの人生について考えるすべての人に観てほしい素晴らしい作品。