劇場公開日 2021年3月26日

「ノマドな人たちは円環の世界に生きている」ノマドランド fuhgetsuさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ノマドな人たちは円環の世界に生きている

2021年4月2日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

何の予備知識一切無しでも、カミさんに誘われ観に行く映画だから間違いない。
今日は映画の日、あエイプリルフールやった。
で、一人で観ても1200円、二人で観ても50超えたら夫婦割で一人1200円。
時間も20時過ぎだから、結局レイトショー1300円やん。
どっちでもいいよと言われて、映画のタイトルきいて、内容知らんけどうん行くわと返事。
結果、よかったー。
こうゆう切り口で、こうゆうテーマで、こうゆう人たちの目線で描くアメリカは、映画としては新鮮だけど、25年以上前に見たアメリカ大陸の自然の風景や田舎街とそっくりな風景がたくさん出て来て(実際その近くに行ったから)、25年後にこうゆう世界になってることは想像つくし、そこに生きてきた人や、人種や、高齢化社会のなれの果てで、街の繁栄と衰退がまじまじと伝わってきて。
そこに上から見た悲壮感がまったくない。
ノマドな暮らしは、好きで望んでしたわけでもなく、そうならざるを得ない時代背景と、そこに生きる喜びを見出し、安定を棄て、変化を受け入れるだけのどうにもならない困難に苛まれた人たちによる、生きる権利を得て、仲間たちと助け合いながら生き生きと暮らす姿が、今のアメリカの根底にあることを再発見して、ホッとしたというか安心しました。
日本でこれをやることができても、あの乾いた感覚は、アメリカの自然の風景が大きく影響してるから、日本の湿った自然のよさとはまた違う感性が、人や動植物にも影響するもんだと。
だけど、自分もけっこう同じような感覚で同じようなことしてるっていう共感がどこかにずっとあり、同じような自然の風景の場所に仲間や家族や一人でもよく行くし、ミニバンに乗ってるけどやっぱりキャンピングカーやヴァンが欲しいと思っちゃう。
アマゾンの倉庫や大型ショッピングモールやアミューズメントが田舎の雇用を支え、ノマドの収入をつないでたり。
日本も同じような問題を抱えるに至り、今のアメリカが近未来の日本の姿をいつも教えてくれる。
原作も知らないけど、見終わってから監督が中国の人だと知る。
どこかアジア系の人種や、ネイティブのインディアンの、移動と定住をくり返す大地とのただならぬ関わり方とか。
映画に出てくる砂漠の山々、海辺や川や、巨木が天に昇る深い森を旅し。
めったに姿を見せない野生動物の姿。
高台から見た風景。
ヴァンを運転しながら見渡す光景。
普段は人間だけの都合で合理的に築き上げた閉鎖的な空間に住んでるけど。
生命力は、そんなところから得ることができる。
いつも、家と家族と仕事や学校のある定点から、同心円で広がるように。
西へ木曽川長良川揖斐川を越えて伊吹山の方へ。
池田山を見ながら揖斐川を上れば、朝鳥明神や大和神社や土川商店へ。
白山を見ながら長良川を上れば、白鳥の石徹白や六ノ里へ。
御嶽山を見ながら木曽川を上り、乗鞍岳を見ながら飛騨川を上り金山巨石群や飛騨丹生川へ。
奥三河の古戸や。
熊野や吉野や、飛鳥や奈良へも。
四方八方旅しながら中心にいるわたし。
ノマドな旅を若い頃にしておいてよかったし、今はこんな往き来でじゅうぶん楽しいけど。
この映画を観て、歳くってからでもガンガン旅に出てみたくなった。
都市や病院から離れることで、人間は本来の生命力が漲る。
田舎暮らしも憧れるけど、定点だし。
老後のノマド生活もありだな。
とにかく楽しめればどんなとこに住んでいようが大丈夫。
そんな勇気が湧いてくる。
留まることで行き詰まった不安を背負う必要は無い。
旅人はさよならを言わない。
またどこかで、となる。
定点だと、そこから居なくなる、遠ざかるから、死の恐怖が最大の別れとなる。
ノマドにとってはお互いどれも通過点。
季節が巡るように、また戻ってくる、円環の世界に生きるってことだ。

追記:

ノマドってかっこいい意味でなく、映画の原作が「ノマド 〜漂流する高齢労働者たち」で、車上生活しながら過酷な季節労働する現代のノマド(遊牧民)の姿を浮き彫りにするんだけど、みんな車一台に独り暮らしで行動しながら、悩みもするし病気はするし、ケータイやスマホはもってて世の中とはちゃんとつながってるし、流離いながら、共存してる。
そのしたたかさや、元気さや、謙虚さや、優しさや、力強さがどれもかっこいい。
納得しながらのこうした生活だけど、これは選んだ人生とも違う。
生き辛い現代社会から追いやられたり、野放しにされた結果なのだから。
んで、思ったのが。
日本だと、東日本大震災で故郷を追われた人たちのこと。
コロナ禍という違った状況の中に、似た状況があること。
現代社会が高度経済成長してるときのヒッピーとは違う。
アメリカも、この経済社会も、すでに崩壊の一途を辿ってる中で、一番弱いところにいる人が一番力強く生きていて、次の世界を切り拓いていく原動力になるに違いない。
そこには、闇の中にあるかすかな希望の光が、輝いて見えるからだ。
そんな世の中だからこそ、コロナ禍のような現象が起こり、定住して留まる人たちが右往左往する中で、したたかに生きる人たちが新しい世の中を切り拓いていくことになるでしょう。
映画の中でも、ノマド生活している妹に対して定住している姉が卑下するでなく、アメリカの開拓時代がそうだったようにと褒めたたえ、羨ましく思ってると告白したシーンが印象的だった。

fuhgetsu