劇場公開日 2021年3月26日

「アメリカの青春と白秋」ノマドランド シューテツさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5アメリカの青春と白秋

2021年3月28日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

私にとってはザッツ・アメリカ映画って感じで、内容にも映像にも圧倒されてしまいました。
非常に個人的な話ですが、私が生きてきた時代の、私が観てきたアメリカ映画史の終焉を見たような気分になりました。
そういう意味ではこの作品、アカデミー作品賞というよりキネマ旬報外国映画ベスト1って称号の方が似合いそうな作品でもありました。
私の映画の入り口で原点はアメリカンニューシネマであり、即ちそれは私の青春でもあり、それはロードムービー(=アメリカ映画)であったと言っても間違いないでしょう。
私がアメリカ映画で教わったのは、自由と平等の精神であり、真実の自分にこそ意味があるということであり、それがずっと私自身の哲学の核の部分であった様に思っています。現実の私は真逆の生き方だったかも知れませんが、こうあるべき的な人生哲学への傾倒だと思って下さい。

しかし、ロードムービーとはいっても作品毎にテーマは全く違うのだけど、それでも私の思うアメリカ的な精神性(自由という言葉への信仰)は、どの作品にも通じていた様に感じます。本作の言葉を借りると「さよならは言わない。生きていればまたどこかで逢える」ということなになるのでしょうか…
恐らく本作の登場人物達はニューシネマの時代に流行ったヒッピー達に近い年代であり、本作の多くのシーンでは当時の光景のデジャブに似た錯覚を覚えましたが、内容的には真逆であり、成熟し、諦観した会話であり集いに変化していました。
更にニューシネマの頃のロードムービーは、どんなに悲劇的な内容であったとしても、季節なら初春、1日なら朝焼けの時間帯の印象でしたが、本作では季節なら晩秋、1日では黄昏れの時間であり、その雄大な風景の美しさだけが絶対的でした。
私はある時代のアメリカ人とアメリカの大地を、映画(ロードムービー)を通してずっと見続けてきたのかも知れません。
この壮大なアメリカの青春と白秋、朝焼けと夕焼け、光と影が醸し出す、絶対的アメリカ映画の精神を、クロエ・ジャオ監督という中国人が描ききったことに、また新たな時代のアメリカ映画を感じました。

シューテツ