劇場公開日 2022年4月8日

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「コサックの軍服」親愛なる同志たちへ 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0コサックの軍服

2022年4月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

国家という大きな共同体と家族という最小単位の共同体が、一人の女性の中で衝突する。市政委員会のメンバーである主人公は、体制側の人間だ。イデオロギー的にも共産主義の正しさを心底信じている。一方、その娘は、工場に勤めており、ストライキに参加し体制を批判する側となる。ストは大きな暴動に発展し、軍が鎮圧に乗り出すと、安否のわからなくなった娘の行方を追って主人公は奔走する。
軍が市民を殺すという事態を、体制側は隠ぺいしようとする。しかし、娘がそれに巻き込まれた主人公は、何を信じればいいのか揺らいでいく。娘を想う気持ちと国家を信じたい気持ちの狭間で主人公は葛藤し続ける
主人公と娘の他、主人公の父も重要な存在として描かれる。彼は、コサック兵の軍服を大切に保管している。コサック兵はかつてロシアの支配に対抗した軍事勢力だが、この作品の舞台はコサックがかつて活躍した土地でもある。そんな父の存在によって国家と娘の対立軸に、歴史の経糸が折り重なり、分厚い物語に仕上がっている。改めて、ロシアとはどんな国なのかを知るために、見てほしい作品だ。

杉本穂高