「ラストのシークエンスについて」親愛なる同志たちへ ユウコさんの映画レビュー(感想・評価)
ラストのシークエンスについて
スターリン時代を懐かしむきまじめな共産主義者のリューダが、物価高や賃下げでデモが起きた街を鎮める仕事に没頭せざるを得ないのに、娘が労働者デモに参加して行方不明になる。(軍は市民に銃を向けないというのが、軍人にとっても市民にとっても共通理解のようなのに、治安維持のためにデモをする市民は銃撃してもいいと考える人もいて、指揮も混乱しているのが恐ろしい)暴動にモスクワから鎮圧部隊がやってくるが、KGBのスナイパーが市民を銃撃するところをリューダは目撃してしまう。何が正しいのか自分の中で信じてきたもの折り合いをつけてきたものがどんどん揺らいで、ただ動物的な母性が行動原理になってしまう。
発表よりはるかに多い死者。行方不明の娘を探しにくるKGBの男とリューダは封鎖を破り(死者数をごまかすために)市外にこっそり遺体が埋められているという墓地を訪ね、娘が埋められたと知るのだが…
(ここからネタバレまじえての考察)
結局娘は友人宅に隠れていてどこかに逃げようとしているのですが、パスポートが見つからないとパニクっています。リューダはKGBの男から返してもらった(そのときに何かあったら助けるよと親切に、下心で?言われています)パスポートを自分が持ってることを娘に告げ何としても助ける(助けてくれる人もいるから!)と娘を抱くのですが、これって、KGBの罠ですよね。
市外の墓地に行くとき検問で捕まり、しかしすぐに解放されて墓地まで行けたのは、リューダとデモ参加者の娘を捕まえるためだったのでは。
車の中で「君はすでに危険分子認定されてる(大意)」と言ってたけど、見てる側も当たり前でしょと思ったけど、コトは思った以上に深刻で2人はこの後うっかり男と連絡取って殺されるんだろうなあと思ったのですが。
ほかの方のレビューで、ラストはハッピーエンドととらえたのが多かったので、違うんじゃないかなあと。
他にも上の気に入るようなレポートを書くことに腐心したり立場で発言をスルーされたり「蠅一匹も」の台詞があったり、細かい見所が多いです。2022年の今これを見られた僥倖。(お父さんの軍服のニュアンスがソ連史に詳しくなくて分からなかったのが残念。あの軍服はソ連のではないとして、ではどの立場の軍属だったのかな?)