「祖国への愛と憎悪」親愛なる同志たちへ MARさんの映画レビュー(感想・評価)
祖国への愛と憎悪
1962年、冷戦下のソビエトにて発生したノボチェルカッスク事件をきっかけに、党に忠誠を誓っていた市政委員のシングルマザーの心の葛藤を描いた作品。
序盤からただならぬ雰囲気。
頑固なまでに共産主義に固執する母親リューダに対し、ストライキを起こす労働者側に傾倒していた娘。
国柄なのか時代なのか、同じ家に住む家族にでさえこうなってしまうとは。妄信は恐ろしい…。
しかし、それでも事件に巻き込まれたかもしれない娘を案じて銃弾の中を駆けまわる姿は紛れもなく一人の母親。行方をくらました娘を想いながら、自身の信じてきたイデオロギーへの気持ちも揺らいでいるのか・・・。
個々人の信念はあれど、改めて共産主義の怖さを教えられる作品。
平等な社会を謳いながらも、皆が皆物価高騰や賃金減少に苦しめられちゃ・・・。そしてノボチェルカッスク事件の真相も、真実を漏らせばはたしてどうなるか。発砲されケガを負っても病院に行けば・・・。この監視体制の先にユートピアなどあるのだろうか。
その他、あてにならない中央委員会に苦しめられる市政委員の姿や、まだ人の心が残っていそうな軍トップへの発砲許可(命令)を言い渡す場面、お偉いさん方の責任のなすりつけ合い等々、考えさせられるシーン盛沢山。KGBと軍の対立なんかも、複雑ですね。
兎に角、揺れているのか、或いはそれでもブレていないのか、場面ごとのリューダの心情を考察する面白さに加え、要所で味を出す上司やKGB、お父さん等々脇を固めるキャラもしっかり立っており、非常に見応えのあった作品だった。より勉強してからまた観てみたい。
最後のシーンはよくわからなかったな。。結局あの巡査は単に間違えてたのかな?
きっと良くなる・・・。
半世紀経った今、この言葉を放ったリューダは、まさに今日のかの国を見て、果たしてどう思うだろうか?