「のん 圧倒的な存在感と熱量」私をくいとめて ken1さんの映画レビュー(感想・評価)
のん 圧倒的な存在感と熱量
社会問題をどう扱うかということが、常にエンターテイメントの課題なんだと思っている。ドキュメンタリーのようにシリアスに伝えることも大事だが、問題を問題として捉えていない人々にとってはやはりとっつきにくいという側面もある。僕はそこにポップの重要性をみる。
本作は、僕が考えるに、恋愛映画の服をまとった社会派映画だ。パワハラ、セクハラ、結婚観など日本社会に蔓延るジェンダーの問題を描き出す。しかし、それらをただシリアスに伝えるのではなく、主人公の一人芝居という演出であくまでもポップにさりげなく表現する。そのポップさに不可欠なのが「のん」という役者だ。
「何という役者なのだ。」と、のん出演の作品を観るたびに感じる。シリアスも、コミカルも、あるいは声優であっても、あの感情量、あの声、あの表情。圧倒的な存在感と熱量で観るものを惹きつけ、重いテーマもエンターテイメントに昇華する。ああいう役者はあまりいないのではないだろうか。何を演じても同じという意味ではない。役柄をしっかり飲み込んだ上で表現に変える力がずば抜けている。本作品ではそういうのんの魅力を余すところなく出すことに成功していると思う。
対極的な役者、橋本愛との共演も面白い。彼女も素晴らしい役者だが、のんとタイプが明らかに異なり、様々な役を彼女のフィルターを通さず演じる器用さがある。静と動、陰と陽。もし、逆に配役したらどうなるか想像してみると、全くポップさの無い、暗い映画になってしまう可能性すらある。役者、監督、脚本、原作、全てが上手くはまることで良い映画はできるのだと改めて感じた。
また、原作は未読なのだが、ぜひ読んでみたいと思った。どこにでもいるごく普通の女性の本音をどのような形で伝えるか、共感を呼ぶかという点で優れている作品であるのは間違いないだろうから。
今年の締めくくりにふさわしい良い映画だった。