「これならわざわざ日本でリメイクする必要が無かった」おとなの事情 スマホをのぞいたら といぼ:レビューが長い人さんの映画レビュー(感想・評価)
これならわざわざ日本でリメイクする必要が無かった
原作はイタリアの映画で、「世界一リメイクが作られた映画」としてギネス認定されている作品です。
私は元となったイタリア版は観ていませんが、韓国版リメイクである『完璧な他人』は鑑賞しました。韓国版は多少の不満点はありつつも楽しく鑑賞できました。
本作は事前に鑑賞していた韓国版リメイクと比較しながらの鑑賞になります。
結論ですが、この程度のクオリティーならばわざわざ豪華な役者陣揃えてやるほどではなかったように感じます。90年代のテレビドラマのような古臭くて大仰な演出が鼻につくし、日本でリメイクするにあたって付け足された要素が悉く滑っているように見えました。観る人によっては不快になってしまうような倫理観のおかしいブラックユーモアがふんだんに盛り込まれた映画ですので、演出や脚本によってそれを上手くごまかさないと観ていてキツイんですよ。本作はブラックな要素が全くフォローできてなくて露骨なので、面白さよりも不快感の方が大きかったです。
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ある出来事がきっかけで年に一度集まって食事会を開催していた3組の夫婦と1人の独身男性。今年もいつものように7人で集まって食事会を開いていたが、そんな中、メンバー最年少で新婚である杏(木南晴夏)がチャラついた夫への不信感を払拭するために「携帯に届いたメールや通話をメンバーに公開する」というゲームを全員に提案する。やむを得ずその提案を承諾したメンバーたちだったが、食事会中に届くメールや通話によって、次々と彼らの秘密が暴かれていき……。
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そもそもの話なんですけど、例えば自分が知り合いに送ったメールを勝手に他の人に見せられたら嫌じゃないですか。この映画の最初の倫理観がおかしいポイントです。その場にいるメンバーは了承していたとしても、彼らにメールや電話している人たちはまさか自分の発言が赤の他人に聞かれているなんて想像してないじゃないですか。しかもメールや電話の内容は他の人に聞かれたくないようなデリケートな問題も多いですし。だから普通に考えて、自分に届いたメールや電話をその場の人たちに公開するっていうのはよっぽどの理由がないとダメだと思うんです。
でも本作は、杏が「携帯公開ゲーム」を提案する理由付けが弱い。かなり唐突に提案しているように感じました。韓国版がどういう導入だったのかはあまり覚えていませんが、ここまで不自然ではなかったと思います。日本版ではその辺の違和感が脚本でカバーできてないように感じ、かなり不自然でした。
そして公開される秘密も浮気・妊娠・浮気・妊娠・浮気。とにかくバリエーションが少ない。韓国版では投資の失敗とかパートナーに内緒で高い買い物してたとかもあってキャラクターそれぞれに合った秘密がありましたが、日本版では無くなっていました。
そしてところどころに観られた大仰でテレビドラマのような演出が鼻につきました。
例えば冒頭にある指輪をアップで映して「キラーン」と光るエフェクトが掛かるところとか、何かあるごとに大きくBGMが鳴り始めるところとか。監督の光野さんの来歴は存じ上げませんでしたが、映画鑑賞中に「多分この監督はテレビドラマ出身だろうな」と思うシーンが多々ありました。実際、光野さんは90年代から00年代にかけて数多くのテレビドラマを作成してきた監督で、映画の監督は26年ぶりだそうです。
長年テレビドラマの監督をやっていた影響で、テレビドラマの癖が抜けてないんだと思います。大仰な演出や頻繁に流れるBGM、クリフハンガー的な引きの演出が多くて全く映画的じゃない。そしてそのドラマ的な演出が鼻につきます。終盤の、台風のことを思い出すシーンも延々と説明的な台詞で台風の状況を喋っているのが「ドラマっぽいなぁ」と感じました。
韓国版では男4人が40年来の幼馴染で年が近いという設定でしたが、本作は「台風で孤立した建物に取り残され、お互いを励まし合いながら生き延びたメンバー」という設定になっており、年齢や社会的地位がそれぞれ異なっています。この設定変更はなかなか面白かったと思いますが、もう少し活かせたように感じます。韓国版は男たちは幼馴染であるが故にお互いのことをよく知っており庇い合うのに対して、それぞれの妻たちは付き合いが浅くて表面的な態度を取っているなどのキャラクター同士の関係性の描写が面白い作品です。その関係性の面白さが本作では設定変更で無くなってしまっているので、それに代わる面白さが無いといけなかったように思います。
問題が何一つ解決されていないのにコンビーフ食べて「めでたしめでたし」というハッピーエンドかのように終わっているのは違和感があります。この違和感、なんか既視感があると思っていましたが、『キサラギ』を初めて観た時の「ハッピーエンドみたいな演出してるけど全然ハッピーエンドじゃないだろ」感と同じように感じました。
私は韓国版と日本版を見比べると韓国版の方が良かったと感じたんですが、韓国版のレビューを久々に確認しに行ったところ「日本版の方が良かった」というレビューをしている人がちらほらいました。結局は、観る人によって評価が異なるってことですね。本作を観た方は、ぜひ他の国のリメイク版も鑑賞してみてください。軸となるストーリーは同じでも、役者の演技や脚本や演出、そして細かな設定変更が映画全体の印象を大きく変えることが分かると思います。オススメです。