「非日常が曇らせる評価基準」グレイハウンド オスカーノユクエさんの映画レビュー(感想・評価)
非日常が曇らせる評価基準
目を瞠るシーンが訪れるたびに、劇場で鑑賞出来ない暗い事実への反発で心がざわめいた。
青や黒より水しぶきの白が勝る荒波に、角度も鋭くつっこんだ艦首が呑まれていくダイナミズム。これを映画館で観ずしてどうする! 敵Uボートを沈めた証として、兵士たちが流した血のようにどす黒い燃料の油が海面に浮かぶホラーとそれを見つめるトム・ハンクス艦長の悲痛な表情。これを大スクリーンで観られないなんて!
もしかすると反発心が生んだ過剰な評価かもしれない。実際に劇場でこの映画を観ていたら、けっこう良かったね、くらいでスルーしてしまっていた可能性がないとは言えない。事実、約90分という上映時間は、劇場で体感するには少し物足りない尺だ。
劇場で観るはずの映画を小さなデバイスの画面で観るという“非日常”は、明らかに作品を評価する眼を曇らせている。正直に言って、この映画を何のバイアスもなしにこれまでと等しく評価できる気がしない。
これまで大スクリーンで迫力ある映像と音響を当たり前のように享受してきた我々はいま、まさに時代の過渡期にいる。
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