配信開始日 2020年7月10日

「海の上ではセンチメンタルなセリフは不要なストイック仕様!」グレイハウンド 村山章さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0海の上ではセンチメンタルなセリフは不要なストイック仕様!

2020年9月30日
PCから投稿

スゴいなと感心したのはトム・ハンクスの脚本で、観終わってから振り返ってみると、この映画にはほぼ一切心情を吐露するようなセリフがない。海戦の最中にあって、気持ちのケアをしている余裕は一切ないからだ。それでもハンクス扮する艦長は部下を、部下は艦長を気遣い、そして全員がプロの仕事をまっとうしようと全力を尽くしている。心情を吐露しないからとして、登場人物が無味乾燥なわけでは決してなく、それぞれの葛藤が想いは演技と演出から過不足なく伝わってくる。ストイックな脚本を、ちゃんと監督も咀嚼して作っているのだろう(脚本家が主演俳優として出ずっぱりなのだから、監督のプレッシャーも凄そうだ)。

そしてハンクス扮する艦長の、実力と限界とが残酷なほど描かれているのもいい。彼を律しているのが信仰である、という描き方は、正直無宗教なのでピンとは来ないが、『ハクソー・リッジ』にも似た信仰ゆえの過剰さを描いた映画である、という解釈もできるように思う。

村山章