「今の時代に沿った、自分の隣で起こってそうな怖さが後引く作品です。」人数の町 松王○さんの映画レビュー(感想・評価)
今の時代に沿った、自分の隣で起こってそうな怖さが後引く作品です。
予告編を観た時からなんとなく興味が惹かれて観賞しました。
で、感想はと言うと…個人的には結構好きかも。
面白いと言うか、妙に癖になる感じの作品で、邦画では割と珍しい感じの作品です。
ユートピアとは対義の「ディストピア」を扱った作品で物凄くカルト臭がするw
でも、劇中で行われている事が物凄くリアルな感じで、気が付いていないだけで、日常的に自分の隣で行われている様な怖さがあります。
結構この怖さが癖になると言うか、後味の引く感じで個人的には終始楽しんで観られました。
他の方も書かれていましたが、イギリスの映画の「1984」に似てると言えば似てます。て言うか類似点多し。
でもそれがダメと言う訳でなく、今の時代に沿った日常の怖さがあるんですよね。
時折入れられる行方不明者の数とかのデータがリアルに感じられて、今やるからこその怖さが感じられるんですよ。
犯罪を犯したり、借金で首が回らなくなったり、様々な家庭環境で社会に馴染めない、または絶望している人達を救済し、衣食住が保証され、いろんな快楽を貪る事が出来る。
こう聞くと理想の町に聞こえるが、それぞれの個を奪われ、単一の無個性になる事が条件。
言われるままに、なすがままに流されて生きる事が出来るのなら、とっても良い生活と言えますw
現実が息苦しい生活と虐げられた環境に希望が見出せない人にはまさしく理想郷。
それぐらい現実はなかなか厳しいので、所々で“…悪く無いかも…”と思ったりします。そう思うとまさしく思うツボw
それぐらい「ちょっと良いかも」と思ってしまうのが…よく考えると怖い。
これってカルト宗教と同じ手口なんですよね。
でも、SNSで褒めたり貶したりして食べ物を貰えて、たまに外に出て、投票したり(政治に関心のある人にはこれは辛いかも)、ハンバーガーをバズったり、普段はプールで優雅に泳いだりして、気が向いたら、気に入った人とSEX。それも申し込まれたり、申し込んだりと自由。
まあ、理想郷と言えば理想郷でちょっと羨ましいw
「マトリックス」でモーフィアス達を裏切るサイファーが赤い薬を飲んで、辛い現実世界にいるよりか実態はなくても感じてそれが現実と認識出来るのならと仮想世界に戻してもらう事でエージェント・スミスと契約すると言うのがありましたが、感覚的にはそれに近いのかも。
辛い現実よりも何も考えなくても良いのなら、快楽に身を委ねたいと言う気持ちはホント分からなくはなんですよね。
入所する際に首元に植え付けられる装置みたいなのは「カイジ」や「GANTZ」「オールドボーイ」「約束のネバーランド」なんかでも使われてますが、あの妙な不快感の雑音が嫌ですね。
最終的に死ぬのかも知れないけど、GANTZみたいに遠くに行くと爆発すると言う訳では無いみたいだけど、有りそうな感じ。「その電源的なのは何処から供給されるの?」みたいなのは言いっこなしw
かと言って、難点と言うか、ダメな所が無い訳では無いんですが、中盤辺りからちょっと間延びした感じがするのと、登場人物の扱いが割と雑。
物語のキーパーソン的な感じがした緑なんかは紅子が出て来たあたりからフェイドアウト的になっていくし、他の登場人物も出て来てもさほど絡まずにいつの間にかいなくなった感じが殆ど。
ただ、これは人間をただの人数(数)とするだけの町としては、実は当たり前でなので、モブの様に居ても居なくても構わないと言う主旨から考えたら、凄く合ってるんですよね。
ですが、物語が淡々に進め過ぎてしまうきらいがあるので、この辺りは観た人の評価が分かれる所かも。
中村倫也さん演じる哲也は…ちょっとよく分からん。
「町」に溶け込もうとしながらも、時々妙な行動に出る。緑に気があったかと思えば、急に姉の紅子に「愛してます」と告白する。そこまでの描写が無かっただけに急過ぎて、かなり混乱。
また、石橋静河さん演じる紅子もなんかよく分からないし、急に降って湧いたような正義感を振りかざして、なんかしっちゃかめっちゃかにしていく。
どうも行動と言うか、浅い感じの思考がちょっと鼻につく感じなんですよね。
また、紅子が出てきてからがやっぱりとっ散らかした感が出て、それを無理栗まとめた感じ。
紅子の妊娠なんか訳の分からんの最たるモノ。
ラストもビックリながらに強引感があって、メッセージ性の強いラストなだけにもっと丁寧に描いて欲しかったかなと思います。
途中からの失速感が勿体無いです。
面白いと言うか気になる登場人物もいましたが、個人的に気になったのは「岬の兄妹」で兄役で主演を勤められた松浦祐也さん。岬の兄妹の頃よりもふっくらされてましたが、演技がなんかネトッと後引く様な感じの雰囲気が気になりますw
緑役の立花恵理さんは綺麗で妖艶な感じがなんか良いw
子供を出産している感じには見えないので、それこそ「紅子と緑の立場逆じゃね?」と思ってしまいます。
結局、その大元となる宗教的な財団みたいなのは何なの?と言うのは明らかにされずじまいですが、全然オッケー。
ストーリーと言うか、設定勝ちみたいな作品で興味を牽く時点で大体のところ、この作品の勝ちかなぁと思います。
映画配給会社で個人的には良作も多いけど、メジャー志向なイメージのキノフィルムズが映画化した割にはかなりトンガった作品な感じですが嫌いじゃないです。
荒削りな感じで、「1984」にそっくりと言えばまさしくそうw
でも、妙な魅力のある作品です。
結構後味引くカルトテイストな作品が好きな人にはお勧めなので、興味がありましたら、如何でしょうか?