「親に恵まれるか恵まれなかったかという人生最初のスタート地点で、人間は既に結果が決まっているのですが、この社会の絶望的な現実を前にしながらも、生まれた時から負け組の3人は、もがきながら生きています。」名も無き世界のエンドロール お水汲み当番さんの映画レビュー(感想・評価)
親に恵まれるか恵まれなかったかという人生最初のスタート地点で、人間は既に結果が決まっているのですが、この社会の絶望的な現実を前にしながらも、生まれた時から負け組の3人は、もがきながら生きています。
名もなき世界というタイトルが、そのまま深いテーマになっていることを、不覚にも最後の最後に思い知らされました。
お見事としか言いようのない映画です。
主人公の3人は、いずれも親がいない子供です。
親はいなくても子供は大きくなりますが、それは生物学的に大きくなるというだけのこと。
育つこととはまた別です。
身近にロールモデルとすべき大人がいなかった三人は、自分たちは、いても、いなくても、誰も気にしない存在だという辛過ぎる現実を強く噛みしめながら、お互い肩を寄せ合い、なんとか生きているだけでした。
親から生き方を学ばずに来た悲劇を、三人は「大人になったら何をしようかまったく思いつかない」という会話で嘆いています。
それでも、キダとマコトが肩を寄せ合い働いていた職場が強い力によって消滅させられた時、二人は表の世界と裏の世界でのしあがろうと決意するわけです。
一方、中村アンが演じるトップモデルは有力国会議員の娘でもあり、親や周囲の力や、なにより大人になるということの意味とズルさを教え込める親がいたことで、生まれながらに大きなアドバンテージを持ちながら人生をスタートしています。
そんな疎外されてきた二人の人生が中村アンと、一瞬、交差したことから、ストーリーが大きく転回し、最後の最後まで、この生まれながらの不平等を隠しテーマとして破局に向かって突っ走ります。
爽快感を感じるストーリーではなかったし、カットバックを多用していてストーリーを追うのがやや難しかったこともありますが、それでも哀しみを帯びた見事な作品であるとしか言いようがありませんでした。
「去年の冬、きみと別れ」で主演していた岩田剛典と山田杏奈が上手なことは知っていましたが、この作品でも期待にたがわぬ名演技を楽しませてくれています。
また「OVER DRIVE」の印象が悪くて、新田真剣佑のことを私はダイコン役者だとばかり思い込んでいたのですが、たいへん失礼いたしました。
認識を根本から改めさせられました。