FLEE フリーのレビュー・感想・評価
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私達も結局観客の中の一人
アフガニスタンから逃げて、現在はデンマークで仕事も成功し、婚約者もいるアミンがデンマークに来るまでを振り返るドキュメンタリーアニメ。
全編ほぼアニメだけど、アミンの語りや取材の音声は実際の音声で、現在のシーンもアニメで描かれてるけど恐らく取材中の様子そのままなんだろう。アニメという空想の世界を描ける語り口なのにすごくリアルという不思議な感覚。
難民問題の映画ではあるけど、メインは過酷な亡命を経験したアミン自身の心についての話。自分のことをあまり多くは語らないアミンは婚約者にも自分のキャリアや2人の今後など大切なことを話せない。アミンのそのクセは亡命生活において培われた自分を守る壁。
難民問題を扱った話は数あるけどここまで難民個人の心に目を向けた作品はあんまりなかったように思う。それも監督がアミンの高校時代からの友達だったからできたことなんだろうな。友達を撮ってるドキュメンタリーって眼差しが暖かくて好き。『行き止まりの世界に生まれて』っていうドキュメンタリーと共通点を感じた。
そういう暖かい視線の一方で、目の前に困っている難民がいるのに何もしない"見ているだけの私たち"を鋭く批判してくる場面もあって良かった。難民たちと一緒に大海原の船に閉じ込められたような体験をさせられてこの人達と同じ気持ちだ!と思った後に、クルーズ船に乗る見ているだけの人達が出てきていくら共感したとしても所詮自分たちはこの乗客達と同じなのだと気付かされる。映画館の椅子に座って見ているだけの"観客"に過ぎないことを。
すんません
主人公はわりと裕福な家柄かと
父親はパイロット(空軍?民間?)で、海外への飛行経験もあるようなことが語られていた。
父はムジャヒディンに加担した容疑で警察に連行され、戻ってこず。
本人もアメリカの大学に研究員として招聘されるほどのインテリ。
アフガニスタン内戦とそれにともなうカブール市の混乱、タリバン政権後のイスラム原理主義にもとづく圧政などが描かれるかと思っていたので、ちょっと肩透かし。
主人公がゲイであることについては、ムスリムの社会では生きづらいだろうとは思う。
(原理主義体制下では斬首になってもおかしくない)
とは言っても…
難民にはその数だけドラマがある。どれも同じではなく、ただ皆生きるために必死。
最初ポスターを見たとき、実写ドキュメンタリーかと思ったが、アニメだと知り、昨年見た「トゥルーノース」を思い出した。
あの作品と少し違っていたのは、取材に基づいたという事実を生かし、まるで実写のドキュメンタリーをアニメ化したかのような作られ方だったこと。日本的アニメで聞き慣れている声ではなく、本物のインタビュー録音にアニメを充てたようなシーンと、回想の再現ドラマのようなシーンと当時の情景説明のための実写映像の組み合わせが、そのように感じたのだ。この斬新な演出が逆に見やすかったように思う。
生きるために脱出を試みるその物語は、見ていても辛く苦しく、全てを失いながらも、とにかく生き続ける姿が描かれている。人によって人権を奪われ、さらに力ある者によって心身を痛めつけられる人々。全ての難民にそれぞれの壮絶なドラマがある事をあらためて知る機会となった。この作品の持つ力が、より多くの人にメッセージを届けることになって欲しいと願うばかりである。
「肉体的な痛み」や「死」ではない地獄
(特に後半はネタバレ要素含みます)
インタビューをアニメに描き起こすという形のドキュメンタリー。
描き起こすという作業がある以上、こちらの観る側も、描かれたもの(スクリーン上で語られるもの)全てに何らかのメッセージがあると錯覚してしまうし、「誇張」とまでは言わないまでも、より強くメッセージを発信するためにアニメーションなりのフィクショナルな表現があるものと思っていた。
しかし、それはむしろ逆で、本来の映画のメッセージとは直接関係のない、でも登場人物たちの「素」の姿をあえて描くことで、むしろドキュメンタリーであることが強調される。
実際に彼が見聞きした事件も、もっと残酷に描くこともできたんだろうけど、むしろそちらは実写をカットインさせるくらいに抑え、アニメーション上は人が死ぬシーンどころか、痛々しい暴力シーンさえほとんどない。
この映画は、むしろ「もっとひどい地獄がここにある」ということを語りかけてくる。
自分の出生や国籍、家族の存在、性的嗜好といった、まさに「自分」を作り上げている要素を封印させられ、肉体的な自由もとことん制限されていく。
ここにいるのは本当に「自分」なのか。
もちろん、描かれているのは「彼の絶望」「権力の横暴」だけではない。
「傍観者」という名で、実は加害者側に荷担している「我々(観客)の暴力」。
他国からの亡命者たちの集団に偶然出くわした時、私は積極的に彼らの救護に立ち上がれるだろうか。
さらに言うなら、少なくとも私は「あのおばあさんは殺される」と思ったし、「あの女性は暴行される」「密航したあの家族は死んだ」ことが描かれると思った…いや、期待した。
そう、この映画はその銃口の一つを「私」に向けている。
もう一つ、おそらく「クライマックス」と言っていい、最後のあのナイトクラブのシーン。
大変恥ずかしいことだが、この映画を観た者としては言わざるを得ない。
あれが主人公の「魂の救済」であると解っていてもなお、私は心のどこかに「いかがわしさ」の様なものを感じていた。(単純にあのピンクや紫のネオンや照明に触発された感覚でもあるのだが、それはそれで私の理解力の欠如を物語っている)
私のようなアンテナの鈍い観客にとっては、どちらかというとこの映画は、何か強烈なメッセージを分かりやすく訴えてくるというより、こちらから「(メッセージを)迎えに行く」「掬い上げる」といったタイプの作品なのかな、と思う。
良くも悪くも、観客の評価が別れるのも納得。
ただ、観賞直後は薄かった印象が、後から解説や評論などを見て、改めてこうして書いて整理することで私は作品の輪郭がハッキリした。
こういう映画ももちろんあっていいな、と思う。
実話のアニメ化
あくまで個の数奇な人生物語
どうしても社会問題を絡めて見てしまう作品だったけれど、なるべく雑音・雑念を捨て、あくまで一個人の人生物語として観賞したいなーと思いつつ、今この世界情勢では尚更にあらゆる情報がむしろ邪魔になってしまうなぁなんて思ったり・・・決して難しい作品ではありませんが、複雑な内容です。
味わいのある絵ではあるけれど、個人的には、アニメの質は予想通りあまり芳しいものではないと思いました。しかし、あくまでアニメという手法を最大の武器として何かを伝えようとしている志は強く感じます。
今やアニメを用いたノンフィクションというものは珍しいものではありませんが、ただ情報を伝達するということよりも、なるべくその時の思いや感情を強く伝えようとしている意図を感じました。それが良いか悪いかはかなり微妙なところもありますが、物語として捉えると、偏見や偏狭といったものから脱却して、自由な観賞を存分に堪能できるかも─。ロシアが舞台にもなっているので、できれば去年見たかったなーという思いです。
音や音楽の音響にも強いこだわりや迫力を感じて、相当臨場感がありました。そういった意味からも、ドキュメンタリーというよりも─といった感じです。
紛れもなく傑作。
①映画の間中ウルウルしっぱなしだった映画は幾つもあるが、映画の間中胸(の左上くらいかな)が痛かった映画は少ない。②一本前に『PLAN75』を観たが、勿論全然違うテーマの話とは言え、まだ選択肢のある社会・世界に住んでいて幸せだなと思う。アミンやその家族(ほか劇中の沢山の人達)にはFLEE(逃げる)という選択しかなかったのだから。③アフガン戦争の是非(しかしアメリカも酷いね)や背景を描くのが主目的の映画ではない(勉強せねばとは思わされたけれど)。④アミンがつかざるを得なかった嘘を具現化したシーンや回りで何が起きているのか五里霧中でわからなかった場面を輪郭の曖昧なアニメーションにしているのが却って臨場感を伝えてくる。⑤出てくる2匹の猫がとても可愛い。
不公平
ドキュメンタリーのアニメ?
アフガン、デンマーク、ゲイ?
何のことやらと思いましたが、アカデミー賞で話題になったということで、観てみました。
あまりに自分とかけ離れた話でしたが、時代が多少重なっているため、主人公に寄り添うことができました。
親ガチャという言葉がありますが、これは、国ガチャ時代ガチャだなと思いました。
わたしたちは、生まれてくる国やタイミングを選ぶことができません。でも、それによって人生が大きく異なってきますよね。わかっているつもりでも、忘れてしまいます。
自分は、密入国の船が北欧に向かっていた頃に、客船側にいた人間です。平和な日本に生まれて良かったとかいう話ではなく、不平等は変えられない現実で、申し訳ない気持ちになりました。
観て後悔した。
事実を受け止めやすい
アフガニスタン難民だったある青年の個人史ドキュメンタリー。
未だ青年が本名を名乗れないほどアフガンは危ないとのことで、身を隠すために選んだアニメーションという手法のおかげで、残酷すぎるシーンは『トゥルー・ノース』同様にまろやかになり、さらにはそれでも描けないほどの非道な行為はモノクロの抽象画っぽい線で描かれていたのが、事実を受け止める上では効果的でした。
『カブールのツバメ』『ブレッドウィナー/生きのびるために』『ミッドナイト・トラベラー』と併せて観たいですね。
アフガニスタンで半世紀にわたって起こっている戦争の恐ろしさと、イスラム原理主義が幅を利かせる中で性的マイノリティが生きていくことの過酷さがわかる作品でした。
また、今のソ連をロシアに置き換えると、ウクライナ(特にロシアの占領地域)のことに思い至り、似たようなことが起きているのであろうかと胸が痛くなりました。
作中、デンマークへと亡命するルートにウクライナの飛行場があり、その辺で胸が詰まってしまいました。
タイトルなし
平板なアニメーションからどれだけ脳内でイメージを増幅できるか
先品中頻繁にロシアの警察の腐敗ぶりが登場する。現在の世界情勢に照らし合わせると「やっぱりロシアは」となりがちだが、そこは彼の国に限ったことではないだろうから、冷静に捉えるとして。
国外への脱出を試みるシーンは苛烈を極めているはずなのに、平板なアニメーションからは伝わってこないのがもどかしい。
更には難民として海外で暮らすにしても、その国により受け入れ方が随分と異なり、その後の生活も苦労を強いられる(差別が解消されないなど)が、そのあたりもデンマークはどうなのかが今ひとつ伝わらない。
結局、鑑賞した人の持つ国際知識や画像から得た情報をどのように増幅させるかによってこの作品の評価は非常に差がつくのだろうと思った。
それでも多くの人に届けたい作品ではある。
アフガニスタンから難民となり国外へ逃れた家族の物語。
20年前ということは、2000年頃の話なのだろうか。
映画の中では共産主義政権ということだったと思うのだが、アフガニスタンの歴史は、ウィキペディアを見ても、よくはわからない。
アフガニスタンは歴史的に難民を産み続けていて、世界各地に散らばって存在するようだ。
主人公の少年の家族は、父親が連行され、身の危険を感じたため国外へ逃れた。
最初の地はロシア。ロシア以外に受け入れてくれる国がなかったようだが、観光ビザのため、やがて不法滞在者として暮らすことになる。
スウェーデンにいる兄が仕事をしながらロシアから脱出する資金を工面したが、家族全員は無理なため、最初は二人の姉が送り出されることになる。
そして、次に母と兄と少年の家族三人で脱出しようとするが失敗し、ロシアへ強制送還されたため、母と兄を残し、少年だけが再び送り出され、デンマークへと亡命してことになる。
しかし、一言で亡命と言っても、強制送還や命を落とす危険性もある。
体ひとつで異国へとわたり、人間としての尊厳も保証されない。
ドキュメンタリーではあるが、出演者のプライバシーを保護するため、アニメーションという手法で制作された作品。
ぜひ、劇場で目撃してほしい。
ドキュメンタリーとしての凄さはあるがアニメ映画としては…
本作の主人公アミルが辿ってきた人生はそれはもう壮絶だった。しかも自分よりも年下。現代を生きる人がこれほどの経験をするのかと思わせる内容だった。
アフガニスタン政府も腹立たしいが、本作を観てより怒りを覚えるのはロシアの警察だ。賄賂、暴行、レイプ、窃盗、なんでもありじゃないか。そんな状況で生き延び逃げ切ったアミルの人生を少しでも追体験できる映画だった。
そして流れる音楽もなかなかいい。「Take On Me」が流れるシーンなんて、アフガニスタンの少年がa-haを聴いているんだ!ってだけで親近感がわいてしまう。他にもDaft Punkの曲はとても印象的な使われ方だったし、Roxetteも懐かしかった。
でも、アニメ映画としての出来という意味ではよろしくない。動きもぎこちないし、表情も乏しい。さらにはアニメだからこそもっと攻めた表現もできたはずと思ってしまう。本人たちの顔を出さないために?それならばドキュメンタリーテイストの実写ドラマにしてもいいはず。アニメ映画としての評価となるとこの程度の点数になってしまう。
普通の人達なのに普通に生きられない過酷さ。
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