劇場公開日 2021年9月3日

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「【‰(パーミル)とキルケゴール】」アナザーラウンド ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0【‰(パーミル)とキルケゴール】

2021年9月5日
iPhoneアプリから投稿

思いがけず印象に残る作品に出会った。

対比を対比に止めず、スパイラル感を出して、考え続けることを促したような秀作だと思う。

‰とは、血中アルコール濃度を示すために映画で利用される千分率の単位で、字幕では%に置き換えられていたが、パーミルと読む。

日本では、線路や道路の勾配率を示す標識なんかで見ることはあるかもしれないが、普段はあまり見かけない単位だ。

血中アルコール濃度を5‰(パーミル)に維持することによって得られる解放感と効率性。

‰(パーミル)の単位でコントロールしないと、得られない幸福感なんてあるのか。

これは、デンマーク社会の抱えるジレンマのメタファーなのだ。

ところどころで歌われるデンマーク国歌。
デンマークは、高福祉国家だが、多くのシステムが一律で、さまざまな個性で成り立つ人々にとって、一体、それが幸福なのだろうかという疑問を提示しているのだ。

アルコール摂取が当初の維持目標を超えて増えることによって崩れていく自分自身と、人間関係。

高額な税金を納め、一律のシステムの恩恵を得られる社会で、唯一、緩めに放置されたアルコール。

社会は飴と鞭で成り立っているのではないはずだ。

内気な生徒が、口述試験でキルケゴールについてする回答。

「失敗した後、自分の不完全さを認めること。自分や他人を愛するために」

これは、アルコールに逃避することなく、自分に向き合うことの大切さを示した言葉でもある。

どんなに‰(パーミル)単位で管理しても、その時々で、自分に向き合えないと、自分も周りの人も幸福になり得ないのだ。

しかし、こうした対比を提示しつつも、この回答をスムーズに引き出すために必要だったアルコールという手段。

問題の所在は明らかでも、一様な解決策はないと言っているようだ。

それは、エンディングの若者と歌い踊る場面からも伺うことが出来る。

妻との携帯でのやり取りは希望でもある。

やはり、自分の不完全さと向き合うことが、最善の処方箋であるのだ。

以下余談。

中学の時、ある教科担当の教諭がアル中だと噂になった。

授業中、呼気が酒臭いことはなかったし、授業は面白くて、分かりやすかった。
ただ、用務員室に酒瓶を隠していたのは本当だったらしい。

高校に入学した時に、その先生の娘と同級生になった。
勉強も出来て、明るくて可愛い子で、僕の友人と高校時代から付き合ってて、大学を卒業した後、結婚した。

そして、先生は、定年退職後、酒気帯び運転で事故を起こしたと聞いた。
怪我人などなかったと聞いて、良かったと思っていたが、その後しばらくして、先生は、肝臓を悪くして亡くなってしまった。

孫の顔など見たかっただろうにと、もう少しお酒を控えることは出来なかったものかと考えたりもした。

ワンコ
NOBUさんのコメント
2021年9月11日

おはようございます。
 御忠告、ありがとうございます。
 実は、明日ワクチン接種2回目で、禁酒予定です。
 (1回目は、飲んでしまった・・。)
 アル中になっては、楽しいお酒が悲しいお酒になってしまいますから、ここ2年程は、飲酒量を減らしています。休肝日かあ・・。では。

NOBU
NOBUさんのコメント
2021年9月10日

今晩は
 今作は、酒が人間に及ぼす影響を、実験的視点で描いていて、とても面白く鑑賞しました。
 酒に溺れて破滅する人、それをクリアーして人生の豊かさに繋げる人。キルケゴールの件は、秀逸でしたね。
 私は、365日酒を欠かしませんし、社内でも酒豪とされていますが、故、立原正秋さんのエッセーを読むと、凄い人が居たモノだなあ、と思います。
 唯一、律しているのは、”太陽が出ている時間には飲まない事””キチンと仕事をした後で飲む事”位でしょうか。
 家人からは”アルコール中毒ではありませんか?”と、諫められていますが・・。
 ナントナク、0.05%に納得してしまうNOBUです。では。

NOBU
talismanさんのコメント
2021年9月5日

この映画、色んな箇所で考えさせられました。高福祉、デジタル社会、教育が素晴らしいなど北欧全般に対して「素晴らしい!」というイメージが日本では抱かされています。でも問題がない訳はないこと、フィンランドに暮らしている友人から聞きます。デンマークもそうなんでしょうね。

talisman