「男同士の恋愛だからこそ成立する、文学的な含蓄のある一本。」Summer of 85 たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
男同士の恋愛だからこそ成立する、文学的な含蓄のある一本。
1985年のフランス🇫🇷を舞台に、16歳の少年アレックスが経験する初恋を描いたボーイズラブ・ストーリー。
監督/脚本は『スイミング・プール』『17歳』の、名匠フランソワ・オゾン。
ヘンタイ監督として名高いフランソワ・オゾン作品、初体験💕
オンライン試写会に当選したので、鑑賞致しました。
内容は正に「俺たちのイメージするフランス映画」という感じ。
因みに、『サマー・オブ・84』という非常に後味の悪いホラー映画がありましたが、それと本作は全くの無関係です。共通点は人が死ぬことくらい。
第一に、まず画面がオシャレ!
北フランスのリゾート地として有名なノルマンディー地方が物語の舞台。
こんなところで青春を送ってみたい!と思える、青い海と白い建物。
ボートでのクルージングが放課後の遊びって凄いなぁ〜🚤✨
ラストシーンの崖と砂浜がモネとかクールベの描いた「エトルタの断崖」ぽいな〜、と思って調べたらエトルタもノルマンディー地方だということが判明。
映画に出てきたのは「エトルタの断崖」で描かれている崖ではないと思うんだけど、やっぱり同じ風土だと崖一つとっても似てくるんだなあ、と思いました。
第二に、役者さんが耽美的で美しい🌹✨
主人公のアレックスと、彼と一夏の青春を送る青年のダヴィドは、監督自身がオーディションで選んだという若手俳優が演じている。
この2人が、まるで絵画から抜け出してきたかのような美しさでうっとり…☺️
いかにも80'sなワンピースを着て女装をしても、ギャグっぽくならないのは凄い。
この2人が全力でイチャイチャするんだから、お姉様方は堪らないでしょうね〜♪
第三に、物語の深みが凄い!
本作は、端的に言ってしまえば一夏の恋と喪失の物語。
もしこのお話の主人公が女性だったとしたら、非常に陳腐なメロドラマになっていただろう。
たったの6週間の恋。弄ばれていたことに気づき喧嘩、そして別れ。恋人の死により追い詰められる精神と、その絶望からの脱出。
まぁありがちなラブ・ストーリーですわ。
しかし、美少年同士の同性愛により発生するエクストリーム感が本作の見所!
「どちらかが死んだら、残された方はその墓の上で踊る」という狂気的な誓いが2人を結びつけている。
この他者には理解出来ない結びつきと、同性愛というマイノリティな関係。この2点が互いに絡み合い、物語を予期できない方向へと導いていくところに本作の面白さがある。
しかし、男も女も、さらにはオジサンまでいけちゃう、まるで範馬勇次郎のような性欲の化身ダヴィド。
どんな人間もたった1日でオトすというコミュ力は見習いたいものである。
上記三つのポイントが本作の見所だと思う。
しかし、散りばめられた伏線の巧みさも味わい深い。
死体安置所という言葉がさりげなく登場していたり、ダヴィドが冗談でおすすめしてきたワンピースが後半のキーアイテムになってきたり…。
アレックスに文学的な才能があると言う設定が、後半のナラティブセラピーの展開に自然と繋がっていくのも気持ち良い。
また、アレックスとダヴィドが対比的に描かれ続けている点も考察の余地がある。
自転車で疾走するアレックスには若さと生命力を感じるが、バイクで疾走するダヴィドには死の影が常に付き纏っているような感覚がある。
また2人とも裸で寝そべる描写があるが、アレックスはお風呂(ダヴィドのお母さんにオチンチンが立派だと指摘されている。性=生が強調されている。)、ダヴィドは遺体安置所の金属製のベッドとこちらも対象的。
この2人の対象的な描写の積み重ねが、物語後半の展開に説得力を持たせており、物語的な厚みを増している。
近しい人間の死を乗り越えることによる、少年の成長を描いた作品。
個人的にはBLにそれほど関心がないため、退屈に感じるところもあった。しかし映画全体から伝わる瑞々しさと作劇の巧みさは見事。
とりあえず、観賞後にロッド・スチュワートの「セイリング」を聴きたくなることは間違いない。
※以下、鑑賞中に気になった点。
①カリプソ
カリプソ=カリュプソーとはギリシア神話に出てくる海の女神。
オデッセイ(長い放浪、冒険)の語源となった、英雄オデュッセウス(ユリシーズ)と愛を育むが、オデュッセウスは彼女の元から去ってしまう。
『オデュッセイア』において、オデュッセウスはカリュプソーの住む島へ漂着する。
これは、転覆したアレックスを助けるダヴィドという形で、本作で描きなおされている。
つまりアレックス=オデュッセウス、ダヴィド=カリュプソーなのである。
これはアレックスがダヴィドの元から巣立ち、精神的な放浪の旅からやがては家路につくという物語全体の暗示になっている。
②フランスの学校制度
16歳のアレックスが、就職か進学かという進路に悩んでいるというのは、日本の学校制度で考えると違和感がある。
フランスでは6〜16歳までが義務教育。11〜15歳までが「コレージュ」という前期中等教育で、それを修了すると15〜18歳まで「リセ」という後期中等教育に進む。
アレックスはリセの2年生である。リセには「職業リセ」というものがありこちらは2年制。望むものはさらに2年追加の計4年で行われる。
つまり、アレックスは「職業リセ」に通っており、卒業するかさらに2年学校に通うか、迷っているというわけである。なるほどなるほど。
→と思ったけど、違うかも。16歳まで義務教育ということは、2年制だろうが3年制だろうが、1年間は義務教育で通わないといけないということか?
アレックスはリセの1年生で、義務教育が終わるからそのまま学校に残るか就職するかを選ばなくてはいけない、ということかも。
フランス🇫🇷の学校教育制度に詳しい方、情報をお待ちしています🙇♂️
> 自転車で疾走するアレックスには若さと生命力を感じるが、バイクで疾走するダヴィドには死の影が常に付き纏っているような感覚がある
たしかに。さすがナイスレビュー!!
今晩は
フランスの教育制度は、やや複雑なので割愛します。(映画サイトですし。)
フランソワ・オゾン(この名前自体が凄い)の近作で印象的な作品は、”グレース・オブ・ゴッド”と”二十螺旋の恋人”ですね。
クラクラします。特に”二重螺旋・・”
では。