「大陸へ」キングダム2 遥かなる大地へ よっちゃんイカさんの映画レビュー(感想・評価)
大陸へ
原作未読。
前作は劇場で見てとても面白いと感じていた。
前作は中国での大規模ロケを敢行して、無事大陸のスケール感を出すことに成功していたが、コロナ禍中の撮影となった今回もCGなどを駆使して大陸のスケール、というか戦争を見事に描き切っていた。
IMAXで見たからかもしれないが、戦場で聞こえる騎馬の音が腹に響く感じがたまらない。
よくもあれだけ馬を揃えたものだと感じた。(隊列を組んでる描写はCGだとしても)
こうして古代中国の戦争のスケールを出せた時点で成功はほとんど確定したといってもいいだろう。
さらに、これは原作の良さでもあるんだろうが、戦場の状況の説明が明快で、勝利するためには何をすれば良いかと言う条件(岡を取ること)が誰にでもわかるように明確にされていて、その岡を取るまでの困難も様々な種類で大小織り交ぜて出してくるため、観てる側も飽きない。
途中中弛みする所もあるが岡を取るまでは信の熱さに引っ張られて前のめりになって見れた。
が、問題が無いわけではない。
まず両軍の総大将の描写が浅いこと。
「あれ?これ特別出演だっけ?」というくらい呉慶やひょう公らの台詞が少ない。
というか存在感が薄い。
終盤、王騎が語る「この戦は2人が操っていた(この台詞自体は信に将軍とは何かを教える上で超重要というのはわかるのだが)」という言葉に説得力が無い。
さらに王騎は驚きの事実を言う。
「呉慶は智略に優れた将、ひょう公は本能で戦う将」
え、ひょう公って本能派の将軍だったの!?
これは完全なるキャスティングミス。
というか豊川悦司さんの演技の感じも大人しい感じで充分知将っぽい。
時間がなかったのはわかるし、将軍たちの描写を極限まで省いたからこそ信達の活躍に集中出来たのもわかる。
が、この2人の描写が少なかったからこそ、最後の一騎撃ちで岡を取る瞬間ほどのカタルシスが無かったのも事実。
こればっかりはどちらを取るかといった感じで難しい所だったとは思うが、その困難を乗り越えてほしかった。
ただ、この一騎討ちでひょう公が「(呉慶が秦に祖国を滅ぼされて)舐めた苦渋などそこらに山ほど転がっておるわ!」と言い放つシーンは、政が掲げる「中華統一」とはどういう事かがわかって戦国物では定番の展開ではあるが胸熱になった。
そしてそのあと焦らしに焦らされ、いつくるかいつくるかと待ち侘びた佐藤浩市さんの呂不韋。
原作は未読ではあるものの色んな情報を聞いて想像していた呂不韋はこの国を裏から操る実力者といったイメージで、芹沢鴨や上総広常で圧倒的な存在感を示した佐藤浩市さんはハマり役でさぞ良かろうと思いのほか、意外とスケールが小さくて拍子抜け。
一体どうされたんだろうか。
この後シリーズが続いていくにつれ存在感を増していってくださるんだろうか。
この両将軍の描写不足と呂不韋のスケールの小ささで折角盛り上がった映画が尻すぼみになってしまった。
そして、もう一つ邦画あるあるの悪い癖が出てしまったシーンが物語のハイライトでやたら流れる回想シーン。
戦場という死地で姜かいが尾平を励ますシーンでも、やたらと回想シーンが入る。
回想シーンがなくても姉と重ねてることは充分清野さんの好演でわかるのでいちいち要らないのになとせっかく出かけた涙も引っ込んでしまった。
演技面では大沢たかおさんは前作から相変わらずの存在感と怪演。
姜かい役の清野さんも美しい動きで魅了し、悲しみの一族を好演。
岡山天音さんや三浦貴大さん、濱津さん等5人組の面々もちょっとした軽さで物語にまた違った味付けをしていた上で、歩兵の立場から見た戦争とは何かを体現されてて名演。
吉沢亮さんも出番は少ないながら夢を抱く若き君主の存在感を出していて全体を締めていた。
対して豊川悦司さんや小澤さん、佐藤浩市さん等ベテラン勢は脚本や監督の責任ももちろんあるものの、その演技の精彩さを欠いていた印象。
だが、今の邦画界でここまでのスケールで戦争を描けるのは稀だと思うので、IIIでもこのままのスケールを保って欠けているピースを補強してるろ剣を超える一大シリーズを作ってほしい。
秦は魏の軍を破り中華統一に向けて大陸へ一歩を踏み出した。
信は初めての戦場で将軍とは、戦争とはなんたるかを知り、改めて大将軍になるために一歩を踏み出した。
この映画もそれまでの個人のアクション映画から軍と軍がぶつかり合う戦略映画へと一歩を踏み出してほしい。
IIIがどうなるか待ち遠しい。
【完全なる余談】
数年前にアメトーークで見た「キングダム芸人」で出演者の方が語っていた魅力を今回の映画で改めて体感した。
・最初は嫌なやつとして出てきた人物がかっこよく死んでいって最後にはその人物の事を好きになっている
・60巻以上出版されててまだ国一つ滅ぼせてない(岡一つ取るのに1時間45分という時間をかけていたところで実感した)
他にも5人1組となって戦うことの優位性等々勉強になることも多かった。