「前作よりやや濃密さが薄れたが、次回作に期待」キングダム2 遥かなる大地へ アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)
前作よりやや濃密さが薄れたが、次回作に期待
連載がまだ続いていて 65 巻を数える原作は未読であるが、前作の 2019 年の映画は見た。前作では主人公の生い立ちから剣士として超人的な能力を持つに至るまでと、それに伴って秦王嬴政との出会いや、楊端和や壁らと共に王都を奪還するための戦い、そして左慈との死闘と、濃密な物語の展開は非常に見応えがあった。本作は、それに比べるとやや濃密さが薄れた気がした。前作と同様に、原作者が脚本に加わっている。
今作では、新キャラクターの羌象の物語にかなりの比重が割かれ、「あずみ」のような背景設定が興味深かったが、折角育てた戦闘員をあのような方式で減数するのは、実は無駄が多くて非効率の極みなのである。しかし、羌象がどれほどの想いを抱えて来ているのかが伝わって来たのは良かったと思う。羌象役の山本千尋は、「鎌倉殿の13人」でも善児に育てられる娘役ということで、似たような生い立ちになるのかもしれない。姉の羌瘣役が清野菜名だったのも目の保養であったが、楊端和と違ってどちらも肌の露出が全くなかったのが不満であった。
どれほど戦闘技能に優れていても、一人の戦闘員の知り得る範囲は局地的な勝敗に限られ、立てられる作戦もたかが知れており、信の目指している大将軍とは全く視点が異なっている。大将軍に必要とされるのは軍の全体を見据えた戦略眼であって、個人的な戦闘レベルとは次元が違うのである。これはいくら個人戦を積み重ねても身に付けられるものではなく、軍略を身に付けた者から教わるのが最も近道である。
まず、5人1組になって戦闘の最小単位として1人の敵に当たるというのは、数的有利を保って自軍の勝利を実現するための確実な方法である。赤穂浪士の吉良邸討ち入りでは、3人が1組になって敵1人と対峙したため、吉良側には多数の死傷者が出たのに、浪士側には死者はなく、負傷者も極めて少なかったことが知られている。この戦法の場合、信のように単独行動する者は論外であり、軍令違反で最悪の場合処刑される可能性がある。
敵の前線を真正面から突破して敵の背後に回り込んでしまえば、軍隊というものは背後からの攻撃に滅法弱いので、地滑り的な大勝利を得られる。これはナポレオンが最も得意とした戦法であり、フランス軍に連戦連勝をもたらした。信が行った正面突破はそれを彷彿とさせたが、突破した兵数が少なすぎて地滑り的勝利には程遠かった。
丘陵地が一種の城として機能するというのは確かだが、戦闘地域を丘陵から離れたところに引き込んでしまえば降りて来ざるを得なくなるはずであるし、取り囲んで下から火を放ては殲滅することもできるので、必ずしも万全ではない。平原はいくらでも広いので、あの丘陵にこだわらないところに戦場を移動させれば良いだけのはずである。
秦軍の将たちは、縛虎申や麃公など、当初は頼りなさげであったが、それぞれに命懸けで戦場に臨んだ本物の将であったことが知らされる。知将が個人技の戦闘力も高いということは稀であるので、呉慶が何故あの展開を望んだのかがやや解せなかった。
呂不韋がいつ出てくるのかと思っていたら、ほぼ次回予告のような出方だったのに肩透かしを喰らった感じがした。昌平君が玉木宏というのも贅沢な配役だと思ったが、お楽しみは 2023 年公開の次回作「キングダム3」までお預けらしい。次回作にはまた楊端和が出て来るようなので楽しみである。音楽は非常に質の高いものであったが、エンドロールのミスチルの歌は場違い感が甚だしく、雰囲気ぶち壊しであった。大軍をそれらしく見せてくれた演出には感服させられたので、次回作にも期待したい。エンドロールの後におまけ映像があるので、最後まで席を立たないようにご注意しておきたい。
(映像5+脚本4+役者4+音楽4+演出5)×4= 88 点。
いつも詳細なレビューありがとうございます。まず、配役を全部覚えられることに感嘆いたします。
また、ストーリーも的確に把握され、私が一度鑑賞した程度では到底分かり得なかった内容を知り得るという、素晴らしいレビューでした。
今回はコロナの影響で現地ロケがほとんどできずCGということをお聞きしていたのでどうかな?と思って鑑賞しましたが、全く気にすることなく楽しめました。
次回作が非常に楽しみな映画ですね。