「海のゆりかごに揺られるように、ゆったりと味わい深い語り口が胸に迫る」海の上のピアニスト イタリア完全版 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
海のゆりかごに揺られるように、ゆったりと味わい深い語り口が胸に迫る
かつて主人公の名前「1900」にふさわしく、その年代の終わりの1999年に日本公開を迎えた本作。あれから20年以上も経ったなんて信じられないが、今回、4Kデジタル版とともに満を持して公開されるのは170分に及ぶイタリア完全版だ。なるほど、125分版ではやや駆け足に思えた語り口が、完全版では海のゆりかごに揺られるがごとく、ゆったり味わい深く展開していく。特に演奏シーンはたっぷりと拡充され、本作が音楽劇であったことをより印象付ける形となった。そんな贅沢な仕上がりに身を委ねながら、今回改めて、ティム・ロス演じる主人公のことが、心と体を持って生まれた「1900年代の精霊」のようにも思えた。そう考えると、誰に習わずとも天才的なピアノの才能を有していたこと、ずっとあの船の中に住み続けていたこと、彼を思うとき誰もがノスタルジックな想いを胸に去来させることもなんだか納得いくように思えるのは私だけだろうか。
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