「しばらく引きずる作品だ…(褒め言葉)」ヤクザと家族 The Family ゆめさんの映画レビュー(感想・評価)
しばらく引きずる作品だ…(褒め言葉)
切ない。切なさに心が捻じ切れそう…。
ヤクザ映画はあまり観ていない人間なんだけど、ヤクザをメインの人物に据えながらも、こんなにも繊細で哀しい作品ってほかにないのではないだろうか。
冒頭OPはヤクザ映画!な雰囲気出してたけど、この作品の個人的な見どころはアウトローな世界ではなく、義理人情の美しさではなく、変わりゆく時代と変わりゆく人間関係の切なさだった…。
しかし賢治が出所して以降は本当に観ていて切なかった…。
組員が減り残った者も高齢化、組の社会での居場所もなくなり、兄貴分は組を存続させるために薬物売買に手を出している。
かつて賢治を慕っていた人間もヤクザとは付き合えないからと距離を取ろうとする。
ヤクザや暴力団を許さないという社会はもちろんそのほうが良い。その風潮には私も賛成。
ただ、この映画はその前提をふまえながらも、ヤクザの是非を問うているわけじゃなくて、ヤクザに同情を促してるわけでもなくて、そこにある個々の人生を拾い上げている、というところ(そのスタンス)が良かった。
ヤクザという肩書を持たない山本賢治のままだったなら彼はきっと彼を慕う人たちと一緒に生きていくことができたんだろうな。
でもヤクザの柴咲が山本を受け入れ肯定してくれたからこそ、そこで出会えった人に一目置かれ愛されるようになった彼がいたんだろうな、と思うと切なくてたまらない。
山本賢二、本当に魅力的な人物だった。
彼を演じた主演の綾野剛さんが出す繊細さがこの世界観を作り上げてるんだろうなと思う。
あと組長の舘ひろしさんの穏やかだけど重厚な存在感も良かった。
あと中村の兄貴(北村有起也さん)…。山本がいなくなってからの柴咲組の衰退をどうにかしようとしていた真面目な中村の兄貴のことを思うと胸が潰れそう…。
切なくて美しい良作。
追記
観終わって2日経ったんだけど、本作をずっと引きずっている…。
頭から離れない。
一人、車内で薬物を体内に入れる中村が。
すべて失って山本を刺して、それでも「兄貴」と泣いた細野が。
大人になってもなお山本を「ケン坊」と呼び続けた組長が。
娘と新しい場所で生きるために車を走らせながらおそらく山本を想って涙を流した由香さんが。
色んなことに気づいて山本と接していたであろう綾のまなざしが。
ラストシーンで綾を見て微笑んだ翼の表情が。
そしてすべて引き受けて海に沈んでいった山本の表情が。
この作品の登場人物はそれほどまでに私の中で「生きて」いる。
改めてすごい作品だったのだと思う。
あとOPの親子血縁盃のシーン、インパクトと謎の中毒性でサブスクでつい何回も観てしまうな。