「観終わった後の余韻が何ともいえず良い」ヤクザと家族 The Family yoneさんの映画レビュー(感想・評価)
観終わった後の余韻が何ともいえず良い
ヤクザを舞台装置にした作品。
テーマは「家族」。タイトルそのまんま。
ある一人の青年がヤクザになり、刑務所に入って出所後までを、「1999年 -> 2005年 -> 2019年」という3つの時代で描いている。まだほんの20年前なのに、かなり時代が変わったんだな、ということが映画を通して実感できる。
私はヤクザは必要悪だと思っている。
「義理」や「人情」は人が生きるためには必要な概念だとも思う。一時期のヤクザは、堅気の人に迷惑をかけないという矜持を持っていた。実際、地方都市で昔の(昭和な)銭湯とか行くと今でもたまにヤクザの人と一緒になることがあるが、別に普通に共存している。私はその世界に関わるつもりは全くないが、LGBTの人たち同様に、いわゆるマイノリティな人々と言える。
この映画で扱っている問題の本質は、実は「ヤクザ」問題ではないと思う。
主人公は出所した後でヤクザを抜けるがまともな仕事に就けない。これは「前科持ちの人間」が社会復帰できない問題の1形態なんだろうと思う。2019年の舞台装置は、例えば主人公がヤクザではなくただの人殺しだった場合でも同じことが起こっていただろう。つまり、マイノリティ問題だ。日本社会は、マイノリティに本当に冷たい。一度マジョリティから外れると二度と復帰できない。バブル後、余裕がなくなってから特に顕著になってきた。これは、2021年3月現在、役所広司主演の「すばらしき世界」という映画で扱っているテーマでもあるのかな?この映画観たら気になってきたので、来週あたり観に行こうかしら。。。
この映画ではSNSの炎上問題なども扱っている。
まぁ、実際にああいう感じになるだろう。主人公のパートナーである由香は仕事場を追われたが、辞めさせられたのではなく、自ら辞めるよう追い込まれたんだろう。日本社会の嫌な部分だ。明白なイジメではなく、空気で追い込む。娘も同じ。日本では特に「匿名性」を持ったSNSが陰険さを伴って気持ちの悪い力を持ってしまっている。こういったネットの陰険さに対抗するには、まさに「義理」や「人情」をベースにした家族や仲間、つまりリアルな人のつながりしかないと思う。
主演の綾野剛含めて、俳優の演技は素晴らしかった。
特に最後の翼と主人公の娘のあやのシーン。
娘と告げられたときの、翼(磯村勇斗)の何とも言えない表情が忘れられない。何かが次の世代に引き継がれたというか・・昭和的なヤクザは今後復権することはないんだろうけど、新しい時代の若者たちが形作る「未来(新しい世界)」を予感させる終わり方だった。
日本映画は普段観ないけど、この作品は本当に良い余韻だった。
「平凡」は悪いことではなく、実は一番幸せなこと、ということを実感させてくれた気がする。ただし、「義理」や「人情」を忘れ、法というシステムに従うだけのロボットにさえならなければ。