「愛を求め、愛を捧げ、愛を遺す」ヤクザと家族 The Family さのさんの映画レビュー(感想・評価)
愛を求め、愛を捧げ、愛を遺す
まず第一に俳優が揃ってとてもいい。配役も熱演振りも完璧だ。特に、主人公を演じる綾野剛の目つきの演じ分けが素晴らしい。暴力を振るう際の狂気の宿った瞳と愛する人を見つめるときの子犬のような頼りなく幼い瞳の対比には息を飲んだ。
時代と共に立ち位置が移り変わっていく「ヤクザ」という存在。現代での主人公の不遇な立ち位置に理不尽を覚える人もいるみたいだが、私は特にそう感じることはなかった(警察の「〝元〟ヤクザでも今までしてきたことを考えれば人権はない」という発言は真っ向から否定したいが)。「より良い社会」を目指すならば、反社がどんどん抑圧されていくのは自然な成り行きだ。抑圧されれば当然不利な状況に追いやられる。
反社として生きることを選ばざるを得なかった状況下で時代に翻弄される主人公はただひたすらに不憫だが、一方で「最善の最期を迎えることができた」とも思える。ヤクザとなったその日から、彼は周囲から大きな愛情を与えられ、それに余りあるほどの愛を大切な人々に与え、死に際ですら愛する人に憎しみと同じだけの愛情をこれでもかというほどに浴びせかけられる。そして、ラストは彼の愛の結晶と言える次世代の2人の邂逅で終わる。
決して〝最高の人生〟ではないが、彼が持つカードの捌き方、生き様としては〝最善の人生〟だ。あれで終わらなければ孤独に野垂れ死ぬルートしか私には見えない。孤独は彼が最も恐れることだろうから、これが最善。彼が最も求めてやまない愛を抱きしめながら死んでいくことができたのだから、最善。
現代のシノギとしてシラスウナギをまず見せたのも面白かった。時代をしっかり反映させつつ、地味さ、しょぼさを前面に押し出していく。タピオカドリンクも現代のヤクザのシノギとして有名だが、翳りゆくヤクザを描くにあたってタピオカは少々ポップすぎる。本命のシャブまでのワンステップとして優秀なチョイスだ。