「圧巻の綾野剛」ヤクザと家族 The Family U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
圧巻の綾野剛
凄まじい作品だった。
世情の移り変わりというか、諸行無常というか…切り取った時間もさる事ながら、その焦点でしか描けない物語のように感じる。
内容がヤクザな世界の話なので、同情も共感も出来る話ではないのだが…なんなんだろ、コレは。
胸に蟠るやるせなさを叫びたくなる。
ヤクザは総じて排除の対象なのだろうけれど、形態を変え生息している集団はあるようだ。
国家権力と癒着し、持ちつ持たれつな関係。作品としてその集団が「必要悪」として描かれる事はない。
地域と密接し、その縄張りを守る事でシノギを得ていた「任侠」が、国家と関わり免罪符のようなものを得たのが「暴力団」なのだろうか?
…いや、別にどおでもいいか。あちら側の世界の話だし、憧れがあるわけでもない。
組長の言う「受け皿」って言葉が引っかかってるだけだ。打算で動く人間は結局打算でしか動かない。
国家になびいた次は大国にでもなびくのであろう。
確かに義理と人情で腹は膨れない。
「義理と人情で腹が膨れてた時代の方がおかしい」と今の世代は言うのであろう。任侠だなんだと神格化さえしているが、その内情を知る由もない。
ただ、作品は素晴らしかった。
綾野氏がとてつもない。
年齢による演じ分けも見事だった。
14年後の姿などは…冒頭のシーンからは想像もつかない変化であった。
コレは恐らく狙いなのであろうが、出所するまでのシーンでは結構奇抜なアングルにカメラが入る。
でも、コレが見事なのだ。
綾野氏の芝居にカメラが呼応するのか、カメラに呼応して綾野氏が憑依していくのか、まさにコレしかないって感じのカットで身震いを覚える程だ。
どんな化学変化を起こせばアレが出来上がるのか…この作品は、そんな奇跡に満ち溢れてる。
そして、アクションも攻めてるし、作風に非常にマッチしてる。アクション監督でもあろう吉田氏には感謝したい。
度肝抜かれる。
綾野氏が車に撥ねられるし、綾野氏と館さんの乗った車が車に激突するのだ。
綾野氏の最期もいい。
物語に沿った、物語を決して邪魔せず特化しない。見事な仕事であった。
物語の筋は、往年の任侠映画を彷彿とさせるものの、そのディテールへの思慮というか感度というか…溜息が出る程惚れ惚れする。
何度も映し出される工場地帯の無機質さに、繁栄とその代償を感じてみたり…無駄なカットが1つとしてないような印象だった。
とある先輩が任侠映画を総し「男も女も哀しいんだよ」と呟いた事があった。
褒められた生き方ではないにせよ、体制に擦り潰されていく個人の生涯としては哀れみも感じてしまう。
いつの時代も変化していく。
その変化に対応できない種は滅んでいく。どんどん塗り替えられていき新しい価値観や正義、道徳なども生まれてくる。そして、それらの変革期を生きてきた人間は必ず言う「昔は良かった」
老人の戯言と一蹴するのだろうか?
新しい世代は昔を知る由もない。
そうやって時間は過ぎていく。
常に劣化していく世界に僕らは住んでるわけではないのだろう…常に繰り返す世界に僕らは住んでいるのだと思う。
それにつけても、この胸中に燻る感情はなんなのだろうか?自業自得だろと小馬鹿に出来れば簡単なのだけれど、そうではない。
あの娘に罪はない。
罪を感じる事もない。
ただ、あのあどけなかった翼が、半グレのボスになるような人生を鑑みるに血は争えないって通念は否定もできない…。
やるせない。
ただただ、やるせなさの残る物語だった。
再三言うが、綾野剛は神がかってた。
一瞬たりともスクリーンから目が離せなかったのは「ジョーカー」以来だった。