劇場公開日 2021年1月29日

  • 予告編を見る

「舘ひろしの、時が静止するような佇まいを堪能する一作。」ヤクザと家族 The Family yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0舘ひろしの、時が静止するような佇まいを堪能する一作。

2021年2月7日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

綾野剛、舘ひろしをはじめとした主演俳優が、暴力団構成員という難しい役どころを演じただけでなく、20年にわたる人生の移ろい(いわゆる「老け役」)も演じた作品。綾野剛は序盤の暴走する若者の危うさだけでなく、初老にさしかかった男性の疲れた佇まいも見事に演じています。

舘ひろしの苦み走った男の演技は、もちろん手慣れたもの。専用のスタイリストさんによって、どんだけ老けてもヘアスタイルだけはビシッと決まっているところはさすが!中盤以降は他の出演者がどんどん老いていくのとは対照的に、舘ひろしだけは時間が止まっているという、なんとも『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』な状態に。

前半は綾野剛が組織の中で成り上がっていく、という良くあるピカレスクロマンの展開。だが物語の核心は、長い時間的な断絶を経た後半部分から。ここで現在の暴力団がどのような状況にあるのか、構成員達の境遇から明らかになっていきます。表題は「家族」を前面に出しているけど、本作で取り上げられる家族とは、まず暴力団という「疑似家族」的組織を指しており(もちろん物語の周辺部分では、それ以外の家族像も描かれるわけだけど)、むしろ「疑似家族」と一般的な意味での「家族(世帯)」の関係は切り離されています(舘ひろし演じる柴咲の人物設定からも明らか)。この点に、少しテーマに対する踏み込み不足を感じました。

いわゆる「暴力団対策法」によって、暴力団構成員がほとんど人権侵害に近いような状況に置かれていることを、個々の登場人物の生活描写によって示していく、という演出ももちろん大事なんだけど、どうも「あれもこれも暴対法」と、台詞で片付けられる場面が続くため、どのように法的な問題があるのか、という、より大きな問題として捉えにくい、とも感じました。「警察も同じような奴らなのに、のうのうとしているじゃないか」というエピソードも、いかにも陳腐というか、暴力団側の悲哀を強調するためのとってつけたような要素にしか見えないんだけど…。

こうした、藤井監督の前作『新聞記者』(2019)でも垣間見られた、ちょっとイメージが先行しがちの演出がなくもなかったけど、長めの上映時間を中だるみもなく作り上げた構成力はさすがです!

yui