劇場公開日 2021年1月29日

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「居場所さえあれば」ヤクザと家族 The Family キレンジャーさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5居場所さえあれば

2021年1月31日
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※以下、一部ネタバレ含みます。

前半はガッツリ彼らヤクザというものの「生」を、後半はゆるやかな「死」を描き、多くの観客は間接的にその社会的「死」に加担していると言っていい。
私もそうだ。
ヤクザ映画の中でこれまで手段や根拠として正当化された「暴力」「脅し」「復讐」「落とし前」「メンツ」なんてクソ喰らえと思っているし、そういう意味で私の望み通りの凋落をみせるヤクザたち。

人は、自分を受け入れてくれる場所があってこそ自分自身でいられる。その場所をここでは「家族」と呼んでいて、登場人物たちもその血の繋がりに重い意味をおいている。
しかし、血の繋がりなどというものは便宜的なモノでしかないことは、皮肉にもヤクザという関係性そのものによって主人公がまさに証明してみせた。

ここではあえて登場人物がヤクザだから社会的に叩かれる理由が付く。作中でも「これまでの行いを考えたら(ヤクザへの社会の態度はしょうがないよな)…」とマル暴の刑事が言う訳だが、実は日本においては外国人や性的マイノリティ、貧困に喘ぐ人々も実情は同じと言っていい。

彼ら社会的弱者が、居場所さえ与えられない絶望の末、主人公は結果的にその連鎖に幕を引く。
ラストは痛々しく悲しみに溢れているものの、消えゆく彼の口元に浮かぶ笑みは「魂の救済」とも感じる。
可愛がっていたあいつへの最期の言葉は「ごめんな」だったが、「(終わらせてくれて)ありがとう」と聞こえた方も多かったのではないだろうか。

観た日その1日の気分を左右する、ズンと来る映画だが、これこそ映画体験。

キレンジャー