劇場公開日 2021年1月29日

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「全体から漂うヤクザの終焉」ヤクザと家族 The Family さうすぽー。さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5全体から漂うヤクザの終焉

2021年1月31日
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これほどまでに胸を締め付けられるヤクザ映画は観たことがありません。
「アウトレイジ」や「孤狼の血」とはまた違った、現代のヤクザを時代の変遷と共に描いていたのが何よりも印象的でした。

ここ最近乗っている藤井道人監督の最新作。
「新聞記者」や「デイアンドナイト」等、ここ2年で何本も作ってるという鬼のような人です(笑)
でもどれも傑作級に素晴らしくて、毎年のように個人的ベスト10に入ってしまうと思うと本当に凄いです。

そして、今回またしても傑作を作ってしまいました!

本作の特徴は、ヤクザを単に怖い存在として描くのではなく"人間"としてのヤクザが描かれていました。
なので、主人公が入るヤクザ同士の絆や他のヤクザ映画とはまた違う「仁義」を描いていました。
しかし、決してドラマの「ごくせん」といったヤクザをマイルドな善人として描くのではなく、我々堅気が怖れるヤクザの危うさと怖さもしっかりと描かれていました。
そこの二面性がまたバランス良く描かれていて良かったです。

映像も他の藤井道人作品同様に綺麗でした。
ドゥニ・ヴィルヌーヴ作品をも彷彿とさせる空からの美しいカメラワークやスローで魅せる煙の描写、そして臨場感溢れるロングショットといういつもの藤井道人イズムにヤクザの泥臭さや血生臭さを映していました。
やはり、藤井監督の作品の撮影監督は今村圭佑さんが一番合っていますね!

また、主人公の賢治を演じた綾野剛の演技も凄く良いです。
正直言うと、今までの綾野剛は演技にわざとらしさが感じられてあまり好きではなかったのですが、今作は主人公の不器用さが合っていたのか、わざとらしさを感じる演技が1シーンも見付かりませんでした!

組長は舘ひろしが演じていました。
台詞回しは御世辞にも上手いとは思えなかったのですが、表情から感じる凄みを感じさせられて良かったです。
2019年時代のやつれる演技に関しては完璧です!

好きな場面は沢山ありますが、強いて言うなら綾野剛が出所した現代パートになった時の肌から感じる虚しさ、そして何といってもラストシーンです。
非常に印象に残りました。

この映画で描かれていたテーマは時代の変遷と"ヤクザの人権"でした。
ヤクザはやはり怖い存在ではあります。
でもそれは単に数々の凶悪な事件を起こしてるからだけじゃなくて、自分達が全然ヤクザを知らないからかも知れません。
理由は無論、実際に会ったことが無いからです。

だから自分も今までヤクザを排除する目的の規制法には全然否定もしなかったし賛成もしてました。

でも逆の立場で考えてみるとヤクザも同じ人間であるわけで、排除するヤクザの規制法によって生活の自由を奪ってしまってる現実が確かにある。
そう考えると今あるヤクザの規制法も考えものですね。

ただこればっかりは非常に難しい話ですね。
ヤクザ達を一人の人間として見れば明らかにやり過ぎに感じるし、堅気では無い者として自分達の視点に戻すと今の規制法が無いと怖く感じてしまうのも事実です。

そういった意味では今の時代においてヤクザは終わりを迎えてしまう存在なのではないか、つまりは「終焉」を描いた作品なのではないか。
この映画を観てそう感じずにはいられませんでした。

このように非常に考えさせられる映画ではありましたが、王道のヤクザ映画らしい内容であった前半に比べて現代パートになった後半は少しダレました。
現代パートは本格的に話が動き出すまで長くかかっている気がしました。

また、「ヤクザと家族」というタイトル。
正直そのまま過ぎる気がします。
覚えやすいタイトルではあるものの、個人的にはしっくり来ないです。

何個か気になる部分はあるものの、それでも観た後に余韻が強く残る素晴らしい映画です!
良くも悪くも攻めていた「新聞記者」が好きになれなかった人でもこの映画は観てほしいです。

さうすぽー。