劇場公開日 2021年1月29日

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「"排除思想は拳よりもはるかに強い"と伝える力作だけに、上映開始5秒が台無しすぎる…」ヤクザと家族 The Family わたろーさんの映画レビュー(感想・評価)

2.5"排除思想は拳よりもはるかに強い"と伝える力作だけに、上映開始5秒が台無しすぎる…

2021年1月30日
PCから投稿

 基本褒めです。よくできてます。なので、最初にほぼ唯一にして最大の不満点。詳しくはネタバレになるので避けますが、上映開始のシーンと終盤のシーンが見事にシンクロします。となると、開始5秒くらいで「ヤクザと家族 The Family 制作委員会」って出るんですよ…。これ本当に悪手。最初に出すんだったらまだしも…監督名(fujii mitihito film)なら主張したいのもわかるけども…なんで製作委員会の名前をあのタイミングで入れる必要があったのか非常に不満です。映画の世界に没入させるべきです。ましてや、オープニングが重要な作品なのでなおさら。ちなみに、タイトルバックの出し方は必然を感じたし、演者の名前を手際よく音楽とカットに合わせて出していくのは良かったと思います。

 ヤクザや任侠映画はあんまり得意ではないのですが、そこに力を入れた作品ではないので非常に見やすく仕上がっていると思います。とはいえ、前半は「これはどうやってとったんだ?」というワンカットチェイスシーンなど迫力も内包しており、さすが藤井道人監督だなと思いました。『デイアンドナイト』でも感じましたが、藤井組(ヤクザ映画なのであえてこの書き方をします)は色彩の使い方が非常に豊かで、白と黒とその中間色の使い方で、その登場人物の心理を暗に示すという点で非常に優れていると思います。また、カメラの撮り方も非常に面白かったです。主人公が葛藤しているところでは、不自然に揺らして撮ってみたり、急に主人公目線で下から見上げる形で撮ってみたりと、非常に工夫がなされていると思いました。

 さて、自分はヤクザは大嫌いです。不良も大嫌いです。街で喧嘩しているチンピラもご時世関係なく飛沫飛ばして大声で喋る人間も嫌いです。ヤクザにならざるを得なかった、ヤクザにしか居場所がなかった主人公のような人間もいることは理解しているつもりなのですが、基本的にはいなくなればいいと思ってます。大方がそう思っているでしょう。そういう思想だからこそ刺さる作品でした。

 自らがヤクザになることを望み、絆を深め、血縁関係を超えた家族的な繋がりを構築するも、時代が進むにつれて法の整備・社会通念のアップデートによって居場所をなくしてしまうという実は社会的なメッセージを含んだ作品でした。決してヤクザ善として描くわけではなく、問題提起するには非常に絶妙なバランスで描かれていました。

 ヤクザが絡んだ家族は携帯電話すら契約することが出来ない、足を洗ったといっても少しでもかかわりがあったと思われるだけで職場からも居場所を失っていく、SNSが同調圧力を生んでいく…果たしていいのかということで、面白かったですね。

 SNS描写については、直近で『許された子どもたち』を見たところだったので、ややリアリティにかけるかなと思ったところもありましたが、『新聞記者』よりは良かったです。

 綾野剛さんはもちろんですが、尾野真千子さんの娘を演じた小宮山莉緒さんの透明感に驚きました。今後も注目していきたい女優さんです。

 ラストカットは居場所を見つけたと解釈しても良いし、こうでもしないと見つけられなかったのかとも解釈できるし、それでも見つけられたという喜びもちょっとあって、ビターハッピーエンドでした。いい余韻です。

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わたろー