「そしてシンデレラとその家族はいつまでも不幸に戦慄に幸せに暮らしました」哀愁しんでれら 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
そしてシンデレラとその家族はいつまでも不幸に戦慄に幸せに暮らしました
ヒロインの幸せと不幸の連続。
それを、(予告編の印象では)カラフル×ポップ×喜怒哀楽を織り交ぜて。
私の好きな『嫌われ松子の一生』のような…?
公開時は賛否両論。…いや、否の意見の方が多かった。
まあ、無理もない。作品はシンデレラ・ストーリーかと思いきや、戦慄のサスペンスに…!
ハードル下げて見たからか、それともこういう後味悪しサスペンスが好きだからか、結構面白く見れた。
児童相談所で働く小春。
平凡に幸せを夢見る女の子だったが、「あなたのお母さん、辞めました!」と母親が突然出て行った過去がある。
祖父、自転車修理しか知らない父、学生の妹と4人暮らし。家族や生活を支えているようなもの。
そんなある夜…
祖父が倒れて入院。
祖父を病院に運ぼうとして、飲酒してた父が逮捕。
その混乱の不注意で、家が火事で半焼。
彼氏の浮気現場にばったり出くわす。
たった一夜で立て続けに不幸に見舞われる。
嗚呼、私って悲劇のヒロイン(シンデレラ)…。神様、私が何か悪い事、した…?
さらに、まだあった!
目の前で、一人の男が線路に倒れる。
自分自身も疲れ果てている。とても他人なんかを…。
助けるべきか、見捨てるか。
思えば、これが運命の分かれ岐路(みち)。
男を助けた小春。
イケメンだけど、泥酔した平凡な男かと思ったら…!
開業医!お金持ち!優しい!イケメン!
絵に書いたような…いや、夢のような“王子様”との出会い。
不幸、不幸、不幸、不幸が続いた一夜の最後に、神様がきっと、サプライズで素敵なプレゼントをしてくれたに違いない!
その“王子様”は大悟。
幾度かデートをし、お互い惹かれ合う。
彼は離婚歴あり。前妻は亡くなったが、“酷い女”だった。
前妻との間に娘が一人。8歳のヒカリ。
男手一つで育ててきた大切で自慢のいい娘だが、ちょっと難しい年頃に差し掛かり、他人にあまり心開かず…。
が、小春には驚くほど心を開き、笑顔を見せ、懐く。
失職した父親の再就職を手伝い、妹の勉強も見、祖父の入院も市民病院から超豪華設備の病院へ。大悟は小春の家族との関係も良好。
もう申し分はないだろう。
そして、ヒカリの誕生日のその日に…。
結婚式は皆に祝福されて。
住まいは海が臨めるプール付きの超豪邸。
不幸から幸せの絶頂へ。
私と、愛する夫と、可愛い娘。
夢みたいな暮らし。…いや、もう夢じゃない。
この幸せよ、いつまでも。
これが私のシンデレラ・ストーリー。
めでたしめでたし、ハッピーエンド。
…おとぎ話の“シンデレラ”だったら。
ここから、じわじわと。
以前の不幸がまだマシだったと思えるくらい。
幸せと祝福された結婚だったが、チクリと刺す者も。
小春と大悟は出会いから僅か一ヶ月で結婚。友人たちはそれにびっくり。“足のサイズ”だけで結婚したシンデレラに例えて比喩する。
大悟の母は辛辣な言葉を投げ掛ける。母親の愛情を知らずに育った女性に母親なんて出来ない。母親になる事と母親である事は違う。一理あり。でもそれは、息子や孫娘を思うから。彼女自身も、決して“いい母親”ではなかった…。
毎朝お弁当作って、送り迎えして、毎日広い邸宅の掃除や整頓など家事をして、良妻賢母であろうと奮闘する小春。
一部屋だけ入れない部屋が。ある時扉が開いており、中に入ると…
奇妙な“芸術”の数々。
そこは大悟の趣味の部屋。
それはいいが、展示物が異質。
子供の頃飼っていたうさぎの剥製、30年に及ぶ自身の裸体のスケッチ、前妻との家族スケッチ、そして小春と自分とヒカリの途中絵画…。
どれも不気味さが漂う。
“王子様”は本当に“王子様”なのか…?
小春の手作り筆箱を盗まれたヒカリ。学校でいじめられてる…?
その帰り、担任から話が。「お弁当を作って上げられないなら、学校で給食を出します」
えっ? 私作ってるけど…?
何かの間違い…? それともヒカリが嘘付いてる…?
結婚前はあんなに素直で可愛かったヒカリ。
でも最近、反抗期と言うか、言う事聞かなくなる事が多くなってきている。
夫は新しい母親が出来て構って欲しい、甘えたくなる“赤ちゃん返り”と言うけれど…。
本当にそう…?
“可愛い天使”は本当に“可愛い天使”…?
筆箱が見付かる。思わぬ所から。
おにぎりに“ある物”を入れる。お弁当をちゃんと食べているか否か試す。
学校で悲しい事件が。同級生の死。
そのシーンが意味深。まるで、ヒカリが…。
葬式。黒靴を履いていくのが常識なのに、ヒカリは赤靴で。
帰り立ち寄った喫茶店で、ヒカリが戦慄の言葉を発する。
小春は思い始めていく。ヒカリは、いい子じゃないかも…。
良い妻であろうとすれば、するほど。
良い母親であろうとすれば、するほど。
精神的に追い詰められていく。
精一杯、懸命に頑張ってきたつもりなのに、妻になるって、母親になるって、こんなにも辛いものなのか…。
夫の母親の言葉が皮肉にも本当に…。
ある時、夫の大事な物を壊してしまうという失態をしてしまう。
それを目撃していたヒカリ。“可愛い子”は何処へやら。散々嫌味たっぷりにはやし立てる。
手が出てしまった小春…。
2人だけの内緒にするが、言うまでもなくヒカリがチクり、知った大悟は激怒。
「子供の将来は親の在り方で決まる」
「そんな人だとは思わなかった」
「出て行け」
以前の不幸が運命の悪戯とするならば、
今回の不幸は手に入れたと思った愛や幸せを失い…。
果たして、どっちが本当に“不幸”…?
出て行こうとする小春に、急に恋しくなったのか、ヒカリ泣きながらがしがみ付く。
まるであの時とそっくり。自分だけはあんな母親に絶対ならないと誓ったのに…。
母親失格。
私のシンデレラ・ストーリーはここで終わり。
線路に倒れ込む。電車が近付いて来る…。
今の自分では実力不足とオファーを3度断ったというのも分かる難役。
しかし、全感情放出!…の大熱演。
幸せな時、不幸な時、追い詰められていく時、母性、ダークさ…あらゆる顔を見せる。
やはり土屋太鳳はぶりっ子役よりこういうクセある役の方が本来の実力発揮出来る。『累 かさね』も良かったが、現時点で映画作品の代表作になるだろう。
コミカルな役や優男の印象の田中圭。
本作での一転は、怪演見せた『みなさん、さようなら』を彷彿。
2人に負けないくらいの存在感を発揮したのは、娘ヒカリ役のCOCO。可愛らしさ、憎たらしさ、戦慄さ、その中に哀しさも滲ませる。
『3月のライオン』などの脚本を手掛けた渡部亮平が自身のオリジナル脚本を監督。
ブラック・コメディ、ラブストーリー、サスペンス、衝撃展開の家族ドラマ。
コミカル&ユーモア、ハッピー、それが一転して不穏なムードになり、スリリングに、まるでホラーのように。
不幸→幸せ→不幸。二転三転。この次は…?
線路に倒れ込んだ小春を助けたのは、大悟。
家に戻る。
ヒカリとも再び…。
家族3人の絵画を完成させる。
苦境を乗り越え、今度こそ本当に幸せに…。
ヒカリが学校で靴を盗まれた。
ヒカリを愛するが故に、学校に乗り込む小春と大悟。もはや完全にモンスター・ペアレント化。
突然、同級生男子が驚愕の告白。死んだ同級生の死の真相。
「ヒカリちゃんが突き落として殺したんだ!」
勿論そんなの信じない。
信じる訳がない。
あの子がそんな恐ろしい事する訳ない。
でも…
話だけは聞く。
案の定、ヒカリはヒステリー状態に。
邸宅の壁やガラスには悪質な落書きが。人殺し!
また家族がバラバラに…?
もう、そんなの嫌だ。
どうしたら…?
ある事を思い付く。
劇中でチラッと伏線があったではないか。“インスリンの摂取量”や“近々学校で行われるインフルエンザワクチン”とか…。
あの同級生女子がくれた手紙。あれが本当なのか…?
つまり、嘘を言っているのは男子の方…?
ヒカリは何もかも悪くない…?
それらも曖昧。
こりゃ好き嫌い分かれるのも無理ない。
ラストは本当に衝撃的なまでに後味悪い。
何処で岐路を過ったのか…?
あの線路で王子様を助けず、平凡な不幸なままの方が良かったのか…?
あの線路で王子様を助け、戦慄の幸せで良かったのか…?
“シンデレラ”なのにハッピーエンドじゃないの…?
おとぎ話のシンデレラも案外ひょっとしたらその後、不幸にだってなっていたかも。
でも、この家族にとっては、めでたしめでたしハッピーエンド。