「土屋太鳳の啖呵を聴くだけで十分満足できる一作。」哀愁しんでれら yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
土屋太鳳の啖呵を聴くだけで十分満足できる一作。
冒頭数分から主人公一家に畳みかけるように襲いかかる不幸の連続。「哀愁」どころか、嘆きを通り越して笑うしかないような状況を見事なスピード感で描写した手際に、ほとんど感動すら覚えました。本編も演出と演技の見事さが素晴らしく、『おもいで写眞』に続いて、低い期待値を大幅に上回る傑作に出会ってしまいました。
ちょっとふざけたような題名、そして冒頭のバタバタなブラックコメディー風展開に、軽い内容の映画なのかと思っていたら、特に中盤以降の描写は重量級そのもの。本作は、「『家族』なるものへの幻想に囚われる人々」を描くという点で、ポン・ジュノ監督『パラサイト』(2019)やアリ・アスター監督『ヘレディタリー』(2018)と明らかに近いテーマを掲げています。本作で脚本も手がけている渡部亮平監督は、さすがにコンペティションで脚本が評価されただけあって、伏線の使い方(とその回収の仕方)が見事。さらに土屋太鳳、田中圭、そしてCOCOといった主演陣が、それぞれの極端な二面性を持っている人物を演じきり、物語に強い説得力を与えています。
なかなか衝撃的な(でも途中で予想が付く)結末については賛否両論あり、それまでの丁寧な展開から較べると確かに荒削りで、現実味を欠いています。ただ題名の通り、本作を一種の「寓話」と捉えると、共感できるかどうかは別にして、あの状況も一種の結末として理解できます。
なお本作は、映像面でも創意工夫が行き届いており、場面ごとに僅かに色調やコントラストを調整していて、しかもそれが効果的に機能しています。また全編にわたってカラーコントロールが素晴らしく、特に青の使い方は秀逸!
という訳で、巷では決して高い評価とは言えない本作ですが、劇場で見逃すのはもったいない一作です!