「親愛なる隣人ならぬ残虐なる庇護者」ヴェノム レット・ゼア・ビー・カーネイジ マルホランドさんの映画レビュー(感想・評価)
親愛なる隣人ならぬ残虐なる庇護者
前作よりも時間がたち私生活にも慣れ、より共同生活できてるキャラ作りに徹底した作風で、よりシンビオートの生態に迫るような作風だと思った。
一回見ただけで記号や絵を暗記する頭脳の高さ、細かい絵をトレースする器用さ、おまけにコンピュータにハッキングを行うまで、そのポテンシャルの高さは人間を軽く超えるスペックを備えている。加えて人間生活に瞬時に慣れるのはさすがと言ったところか。
前作ではエディとヴェノムが似たもの同士だから適合できたという設定ではあったが、今作ではより親密さを増してその代わり口喧嘩は絶えない。それがまるで彼が兄弟のような、10代の男子校の友情のような、部活仲間のような、いわゆる「ホモソーシャル」さを存分に画面いっぱい味わえる。
そこから見ても赤の他人との生活というのはまず喧嘩が耐えない。それは男女でも変わらず言えることで、時には距離を置くことも大事なのだなぁと何だか画面を通して教わったような気がする。
ヴェノムが女房役で可愛いというのはもちろんなこと、なんだかんだで彼自身がいちばんエディという人間を知り尽くしている。
物語の中盤、一旦はエディと喧嘩別れするがアンに取り付いてエディの元に行き、彼から許しの言葉を得るシーンは思う存分謝って貰わないと気が済まない、「俺が悪かった、やっぱりお前が必要だよ~俺にはお前しかいない!」という好きな男の愛してるという言葉を聞きたいうら若き乙女のようで本当に意地らしいし愛らしい。
アンと事実上別れたようなものだがまだアンに気があるエディ。彼女に本音を言えないエディをヴェノムが彼女に取り付いて本音を引き出すところは彼女と同化して2人がかりでエディを懲らしめてるようでいじらしいし、2人がシンクロしているのを自然に見せてくれる。その立ち回りを演じるヴェノムはとても器用な生き物で彼自身がどの程度狙っているか分からないが橋渡し的な役目も担うほどとても繊細な生き物なのだなぁと思う。
また所々スパイダーマン3を彷彿とさせるシーンがあり、終盤のカーネイジとの死闘の場所である教会での戦闘は教会の鐘で両者が苦しんだり、キャサディがカーネイジに取り込まれながらフランシスに手を伸ばすところは3のエディのヴェノムを手放せないシーンにも重なる。
そしてヴェノムとカーネイジの対比も素晴らしい。ヴェノムと市井の人々の結束が彼らの絆の深さを示してヴェノムが取り付いても拒否反応を示さない、体を伝ってエディを受け止める所などとても気に入っている。
エディたちとシンビオートは違う生物同士だが、共同や共生していくためには腹を割って話すこと、言葉を交わすことの大切さを教えてくれた作品だと思う。
前作よりも目新しさは感じないけど、安心感やさらなるキャラクターの造詣と味付け、深堀は完成されており、間違いなく見ていて楽しめるはずだ。
カーネイジの暴虐ぶり、画面を暴れ回り縦横無尽に動き回るのは見ていて乱暴すぎて楽しい。清々しさを感じて映画館で見た方が絶対いい。
これでいいんだよこれで、という起承転結が安心してみれて、話も複雑ではなくキャラクターの数も倍増してない、ミニマムな続編としてちゃんと描ききっており、「わかりやすさ」がプラスの方向に働いている。