「終盤、自分のマスクの下がほっこりした笑顔になってるのに気づいた」サンダーロード kizkizさんの映画レビュー(感想・評価)
終盤、自分のマスクの下がほっこりした笑顔になってるのに気づいた
じんわり効いてくる良い作品。
コミュ能力が欠落している男性がすぐに怒ったり謝ったり。大きな出来事は起こらない。
けど必死に喋ってる/生きてるのを見るとジュワンと胸を掴まれる。
帰り道にMitskiを聴いたら今までで一番心に染みた。そんな映画。
怒りを押さえられず、思ったことが口に出てしまう男性が主人公。
カウンセリングが必要なレベルでちょっと変。
でも謝ることもできる。必死に生きてる。
よくある”実は良いヤツ”でもない。
正直近くにいて欲しくはない。けど胸がざわつく。
不思議な主人公でした
つい口が出てしまって、転げ落ちていく主人公はコメディ風。めちゃくちゃ面白い。のに一度も吹き出したりはしなかった。笑っていいのかわからない、の極地。
ただ終盤、自分のマスクの下がほっこりした笑顔になってるのに気づきました。
うん、良い作品。
冒頭が終盤に見事な形で生かされてるのには感動しました。
”あぁ、この映画好きっ!”ってなった。
最後までひねくれた形でブルース・スプリングスティーンの「涙のサンダーロード」を使う。
全然”サンダーロード映画”じゃないようでど真ん中に”サンダーロード映画”なのです。
アンビエント/ニューエイジ系のBGM。これが素晴らしかった。
コメディの後ろで鳴る美しい音。それが主人公のエキセントリックを”笑う”より”心に響く”モノにしてました。体感する映画。
マック赤坂の映画がBGM効果でエモ散らかしてた感覚を思い出しました。
基本はアンビエント系のBGMだけど、後半にかかるカントリー/フォーク系のBGMも素晴らしい。
躍ってるようで、悲しい。
調べたらBon Iverの曲のストリングス・アレンジなんかも使ってたのですね。センスあるー。
英語がわかったほうが面白いシーンは多いかも。主人公のエキセントリックさは特に。
”クソ野郎!”の訳の元は”Shit Head!”。
この絶妙なニュアンスが最高なんだけど日本語にするのは難しいか……。
ってか今作の翻訳はかなり攻めた意訳をしてます。ある意味おもしろかったです。
主人公を務めるジム・カミングスの演技は素晴らしい。ほぼ彼ひとりの振る舞いで成り立つ構成の映画。
しかもこの人は監督・脚本・編集……さらに先ほどべた褒めした音楽まで担当しております。
基本ほぼ無名のインディーズ上がりの人らしいけど……マジヤバ。
主人公に感情移入はしない。
ド派手なコトが起こらない。
大爆笑があるわけでもない。
でも見終わったら身体のなかが優しい夕焼け色になった感覚がありました。
めちゃくちゃ好きな作品かも。
体感する映画。
好き嫌いはあるだろうけどとりあえず”見てみ?”と。