劇場公開日 2020年6月19日

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「それでも彼の生き様を支持する」サンダーロード 久保田 信吾さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5それでも彼の生き様を支持する

2020年6月27日
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アメリカの新鋭、ジム・カミングスが監督、脚本、そして主演を務める「サンダーロード」は、不器用な男の生き様を誠実に描いた映画である。主人公の性格も映画のストーリーも単純であるが、彼の言動には執拗でエキセントリックなところがあり、評価が分かれると思う。

映画のタイトルはブルース・スプリングスティーンの「涙のサンダーロード」に由来する。冒頭のシーンは母親の葬儀であり、彼が持ち込んだ場違いな子供用のラジカセは故障して動かず、母親の好きだったこの曲が流されることもない。何という皮肉。

それでも、主人公はいつでも何に対しても真っ当に生きようとしている。その姿勢だけは変わらない。それは警官としての仕事に対しても、離婚調停で親権を争う一人娘に対しても。しかし、多分に独善的であるため、やる事なす事全てが空回りする。裏目に出てしまう。

彼は思うようにいかない境遇に対して、周囲に怒りをぶちまける。真っ当に生きているのに不当な扱いばかり受けるのだから、彼にとっては至極当然である。その様子は観客の感情移入が難しくなるくらい。痛々しさを通り越して、もはやコミカルである。

しかし、誇張されてはいるものの、彼の人生はやはり真っ当なのである。彼の生きるモチベーションは親権を奪われた一人娘にあり、ぎこちないコミュニケーションの数々がいじらしい。彼の生き様を支持する。それだけに映画の最後、妻との決着の仕方を残念に思う。妻とはきちんと別れるべきだった。人生は不当なもので、まさに「サンダーロード」だけれど、それでも生きていく価値はあるのだから。

しんぐちゃんぐ