護られなかった者たちへのレビュー・感想・評価
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強烈な目力の演技
やはり傑作といえるでしょう。
猟奇的で凄惨な連続殺人事件を紐解くミステリー仕立てですが、そもそも3.11東日本大震災時に端を発しており、登場人物が悉く其々の悲惨で過酷な過去を抱えています。それに加えて生活保護という問題提起も織り交ぜているために、物語は暗鬱で悲愴な空気感に覆われて進行します。
その上、アクション、ラブロマンス、或いは自然の風景美という、観客が陶酔し、のめり込むようなシーンやエピソードは皆無で展開しますので、終始重苦しい映像が続きます。震災時の悲惨で殺伐とした映像だけでは、観客に厭悪感が強まるので、過去と現在が頻繁にフラッシュバックして、観客を戸惑わせ幻惑させることで興味をつないでいきます。
ミステリードラマなので、いきおい会話劇主体で物語は進行しますが、台詞は少なく、特に佐藤健扮する主人公・利根は寡黙で無愛想ゆえにト書きの演技が多く、その思いや考えが全く見えてこず、本来なら観客は飽きてきますが、不思議に彼の一挙一動に惹きつけられていきます。
それは、彼の異常な目力のせいです。右の瞳は黒目が大きく見開かれて輝いて見える一方、左の瞳はやや上方に偏る三白眼です。いわば右眼は慈愛に満ちた天使の瞳、左眼は憎悪に満ちた悪魔の瞳。愛と憎しみが同居した、善行か悪行か、何をしでかすか全く読めない、危険で異様な迫力が、作中利根には常に滲み出していました。彼の目に顕在していた、人が持つ慈愛と憎悪こそ本作のテーマであり、この人類普遍のテーゼを重く深く訴えてきます。
瀬々敬久監督としては、『64-ロクヨン-』に通じる命題です。
更に、事件の容疑者である利根を追及する刑事・笘篠役の阿部寛が、また寡黙で専ら目力の芝居によって演技していました。そのために、登場人物の“目”に引き寄せられ、ずっと追いかけ続けるという、観客にとっては一瞬も目を離せない非常に疲れる映画であり、その分、時間が凝縮されたような濃密な視覚体験だったといえます。
ミステリードラマではあるけれど、事件を解決することが本作の主眼ではありません。従ってラストで明らかになるドンデン返しも、それほどの驚きは湧いてきません。
3.11の震災には、恐らく日本人の凡そ半分の人々にとって、一人一人にドラマがあったと思います。他愛ない小ネタから命のやり取りを伴うものまで、各々の記憶に深く刻まれています。本作は、その一つを取り上げた衝撃的なドラマですが、それ故に幾らか共感できる所はあるものの、残念ながら、物語そのものは、私には心の底から得心出来るものではありませんでした。
時間が経過してもあと引く
自分の無知を恥じた
いつも原作がある時は、先に原作を読んでから(小説に限りますが)見るのですが、最近はひと月弱で公開が終了してしまうので、東日本大震災に生活保護を絡めたテーマだという程度の知識で鑑賞しました。まさに、私自身、そのどちらも表面的な部分しか見ていなかった、知ろうともしなかったことを恥じました。あの大災害で、せっかく生きのびたのに、様々な不条理の中で結局、失われてしまった命が、いったいどれくらいあるのだろう。
もちろん、生活保護に関しては、震災に限ったことではないのですが、今のコロナ禍でもそうですよね。ニュースではコロナ感染による死者数しかわからないけれど、関連で命を落とした人は想像できないほどたくさんいるはず。改めて、自分の無知を恥ずかしく思いました。
映画は、時代が行き来してわかりにくいという声もありましたが、私は、役者さんの細やかな表情づくりや演技で、何の違和感もなくストーリーを追うことができました。
主演の佐藤健さんはもちろんですが、個人的にはやはり阿部寛さんの役の重みと存在感が素晴らしかったです。最後の二人で海を見ながら語るシーン、阿部さん演じる笘篠刑事の表情と言葉が、やぱり切なくて苦しかったです。
投げられた問題提起をしっかり受けとめて熟考しなけれは。
震災のためなら悲しい事です
言葉少ない雄弁な映画
原作は未読だが、3人が出会うきっかけを「東日本大震災で被災した」と改変していて、全編に渡って震災の傷がうずいている。
そのため、事実上の悪役である被害者2人もまた、震災の被災者であり犠牲者として描かれている。
コロナ禍のため、撮影時期が4月から6月になったため、映画の風景も雨や曇天が多くなっている。これが作品の雰囲気に大きく影響している。
いつまでも晴れることのない湿った重い空気は、彼らの晴れぬ哀しみを表しているかのようだった。
サスペンス仕立てではあるが、映画の本質はサスペンスではない。
各自が抱える哀しみによって紡ぎだされる、悲劇と再生の物語である。
俳優陣は皆、セリフに頼りすぎない表現で雄弁に語り尽くしていた。
誰も震災の辛さを口にしないがために、唯一の非被災者である林遣都が感じた疎外感は、映画を見る我々の疎外感でもある。彼の目を通して、我々はあの日を追体験していたのかもしれない。
良かった
少し盛りすぎ感、だがそこが…
本当に困っている人にとはよく言ったもんだ
清原果耶が出演しているということで鑑賞。
監督は「糸」の瀬々監督、主題歌は桑田佳祐。全体的に古臭そうで退屈そうな印象。期待はしないでおこう、と思っていたら意外にも評価が良かったのでそこそこ期待して劇場へ。
中々良かった...。
とても面白いと言えるようなテーマではないけれども、かなりよく出来ていた。やるじゃん、瀬々監督。「明日の食卓」も良かったし、もう心配することはないかな笑
東日本大震災から9年。連続して発生した不可解な餓死事件。被害者はいずれも善人と呼ばれていた男たちだった。そんな中、捜査線上に容疑者として浮上したのは利根泰久(佐藤健)だった。
東日本大震災と生活保護という重く難しいテーマを見事にブレることなく描ききっていた。非常に丁寧な脚本で観客を引きつけるし、考えさせられるものがあった。最近、本作の原作者である中山七里の作品で映画化は大失敗に終わってしまった「ドクターデスの遺産」を読んだ。ドクターデスの遺産も本作も本当に掘り下げ方が上手い。中山七里は本質的に物事を見ている。普通考えることの1歩先を描いているため、今までとは違う視点で捉えられハッとさせられる。
豪華キャストの魂の演技。
貧相で愛想悪く、薄汚いが実の心は優しい利根泰久。本当に佐藤健なのか?と思ってしまうほど、役に憑依していた。「るろうに剣心 The beginning」の緋村剣心のようだった。寂しさと苦しさを必死に耐え抜く姿が。
阿部寛と林遣都の刑事役も見事にハマり、倍賞美津子の温厚で優しいおばあちゃんの演技も流石。吉岡秀隆、永山瑛太、緒形直人も繊細な演技で魅了される。
そして、清原果耶は今作でも大きな爪痕を残した。やはり凄いこの女優は。常に輝いている。清原果耶に圧倒され、鑑賞後も彼女の作品を見たいなと思い、家に帰ってNetflixで今年公開された「まともじゃないのは君も一緒」を鑑賞。やはりこの映画最高だし、清原果耶の演技の幅に驚きました。
展開も非常にいいしちゃんと裏切られる伏線回収。
やはり140分近い尺は長かったけれども、それでも続きが気になり釘付けになっていたし見せ方もとても良かった。最後も蛇足と思いきや...でよく出来た作品だなとしみじみ。主題歌の桑田佳祐も雰囲気にピッタリないい味出していて、重厚感のある映画だった。
しかし、人物の描き不足が見られる。
それぞれキャラクターの人物像があまり描かれていない。特に、3人の思い出なんて大して映し出されないし、ここまでなるほどの愛があったのかね?と疑問が浮かんだ。生活保護の2人も、周りが敬うような性格にはとても見えず違和感があった。
幹ちゃんっていくつなの?子供は多く見積って12歳だよね?9年後だったら21歳。んー、なんか不思議。人物像もそうなんだけど、基本刑事目線で描かれるため感情移入がしにくい。感情が揺さぶられない。「そして、バトンは渡された」と同じ雰囲気を感じる。日本人が好きそうなものを詰め込んだ感じが、私的にはあまり気に食わなかった。
まぁそれでも役者の華麗なるアンサンブルが見れたり、深く考えさせられるテーマでグッときたりとなかなかいい作品でした。これも小説版読みたいなぁ...。
原作の改悪で台無しになったダメ映画
俳優陣の好演が素晴らしいが、脚本がダメという、最近の邦画にありがちな残念作品。
原作を改変し過ぎて、どう見ても改悪の面が強く、台無しになっています。
3.11震災、生活保護など重いテーマを扱っていながら、核心を鋭くえぐるような深味は無し。
殺人の真相についても、違和感あり過ぎで、リアリティーが無さ過ぎ。
良い場面も幾つかあるのだが、何でこうなる?と納得いかない箇所が多くて感情移入しにくい。
時系列が分かりにくい構成も、のめり込みにくい一因。
ただ、俳優さん達の演技はとても良くて、それだけに脚本の不味さが惜しいと感じる。
倍賞美津子が特に素晴らしく、他の映画で見かけた時も思ったけれど、本当に良い女優さん。
清原果耶は良い演技をしていたが、この映画のストーリー上では役柄的にミスキャスト。
中心となるキャラクター数名の過去や背景を上手く描いてないので、伝わりにくい箇所も惜しい。
そもそもあの犯行に意味があるのかも、この脚本では全く理解不能。
あと、佐藤健と清原果耶が会話をしている背景で、バレエを踊っている女が謎で意味不明。
俳優さん達は良かったけれど、どうにも入り込めないストーリー展開で星2の低評価。
ちょっと期待し過ぎたか
犯人探しの物語ではない。
あの震災で一体誰の何が護られなかったのか。命か。物質的な何かか。人権か。それとも生きるという本質か。大切な場所、そして大切な人をたった1日で失った多くの人達。時には知らない誰かと助け合い、寄り添い背中を擦り合いながら1日を終える。そうやってほんの少しずつ進んでゆく。
究極の状況下にあっても人は食べなくては生きていけない。食べるためにはお金がいる。生活困窮者に対して当然与えられるべき支援、生活保護。一方で国の世話になりたくない。恥ずかしいと思わせてしまう日本社会の構図。その最前線に立つ職員と受給希望者。青天井ではない。限られた中で誰が本当に支援を受けるべきなのか。後を絶たない不正受給。決してうまく機能しているとは言い難い。その不条理に斬り込んだ作品。
ただ、震災後のある死をきっかけにした生活保護の問題と、そこに絡んだ9年後に起こる連続殺人事件となかなか忙しい内容。結局犯人探しのサスペンスみたいになってしまっていてそこは残念。重要なのはそこじゃないでしょう。配役は非常に豪華でした。清原果耶素晴らしいですけど、個人的におかえりモネの最終回の日に観に行ったのは完全に失敗でした。
やや重い社会派サスペンス
東日本大震災が原因の事件になっているがコロナ過で護もられなかった人がいるのではないか?
東日本震災で離れ離れになった人たちが、疑似家族のように支えあった姿が生きる力になったのは間違いない。倍賞美津子の家が佐藤と清原がただいまと帰る所だった。生活保護の問題で子供だった2人は倍賞が生活保護を断った理由が分からなくて生活保護課の職員を殺害していくミステリーになっていて、犯人を捜す刑事を阿部寛がなり犯人と思われる佐藤を追い詰めていく。佐藤の汚れ役は(ひとよ)で見ているが、今回は迫真の演技で凄いと思いました。役人のあるべき姿たと現実は難しいと思いますが、寄り添ってくれる人もいるが問題提起していると思います。清原の演技の凄さも再認識しました。涙する場面も多々ありましたが、震災で阿部さんの子供が流されて行くのを目撃したのが佐藤だったと告白する場面も納得でした。
心が痛い
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