「ネット社会に対するアンチテーゼ」護られなかった者たちへ シューテツさんの映画レビュー(感想・評価)
ネット社会に対するアンチテーゼ
本作は、東日本大震災と“生活保護”が物語の重要な背景 となっていて、特に“生活保護”に対する社会の認識が重要なテーマであり核となっていますが、あまりにもタイムリーな有名ユーチューバーのネット炎上騒動があった後の公開だったので、ネットを利用している人々にとっても色々と考えさせてくれる作品だったと思います。
そうした事を考えると、本作はまさにネット民に対する映画民からの回答の様な作品であり、言い換えると両者の価値観の違いに対する回答の様に思えました。
ネット世界にはインフルエンサーという存在がいて、それのファンというか信奉者も多くいるようだけど、物事を合理的かつ功利的に考え、それを優先に沿った生き方を煽る様な発言が目立ち、聞いていても何か引っかかり気持ち悪く釈然としないモノが多く、こういう作品を観ることで自分をニュートラルに戻すことが出来ます。
本作での行政が考える仕事としての福祉の在り方への問題提起は、映画では児童虐待や介護が絡んだ作品は今までにもよく見かけましたが、“生活保護”についての作品はあまりなかったので、それを真正面から問うた作品としても非常に意味のある重要な作品になったと思います。
それと本作はサスペンス映画であり、事件が起こりそこに被害者と加害者がいる訳ですが、その両者共に単純な善悪では図り切れない様々な人間の感情や態度や行動があり、そういう細かな事を感じらる感性や想像力こそが、現在ネットやマスメディアに氾濫している乱暴で無神経で無責任な発言に対しての唯一の防衛・対抗手段であるとの映画人からのメッセージだと私は受け止めました。
本作は「最近はネットばかりで、テレビも映画も全く見ない」という人にこそ是非観て欲しい作品でしたが、そういう人は結局観ないのでしょうね。