劇場公開日 2020年10月23日

「予告編の域をでない。けども映像はそれを埋める。」瞽女 GOZE ピラルクさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0予告編の域をでない。けども映像はそれを埋める。

2020年10月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 小林ハルさんを描くと掲げたらそれは、天皇から黄綬褒章を授与されたかたを描く、ということになり、賞賛の一色にしかなりえない。NHKの45分間程度のドキュメンタリーならともかく、上映時間1時間半を越す映画ともなると、なにかそれなりのひねりや工夫を加えないとちょっと間が持たないだろうと、危惧されるところである。その危惧はあたりで、鑑賞後も居残り続けて、観終えて結果、綺麗に描きすぎててどこか踏み込み不足な感じが否めない思いとなった。
 冷静に整理してみれば、障害受容と感謝の念、瞽女を支える社会と芸道の厳しさ、親子の愛情と教育の難しさ、実に大きな枠で瞽女をとらえていて、これで何が足りないというのかと返されたら答えにくいが、ようするに予告編で想像のつく中身の域を出ていないのである。
 寒さ厳しい山道を繋がって歩いていく瞽女の姿、この代表的瞽女のイメージショットを情感もって眺めることができるようにはなった。それを支えているシーンの数々は綺麗で美しく詩的である。いろんな点で、ドラマとして瞽女を取り込んだ映画『はなれ瞽女おりん』とは対極であり、きれいに描きすぎている気もするが、新潟の風景は物語としては間延びしても映像としてはじゅうぶんに間を持たせている景観美を備えていて魅せてくれている。
 それと方言を使いながら字幕を出さなくてよいギリギリのところにとどめているのはありがたい。あの当時の方言をリアルに使われたら、おそらく何を言ってるのかわからなくなると予想する。文化の観点で意見分かれる面もあろうが、映画の着地点はこの辺だなと、よそ者ながらにわかった。そのような素直で丁寧なモノづくりの姿勢が全編貫いていて、作品の内容とも合致して好感度に満ちているから、不満はあるものの低くは評価しにくい作品である。
 しかし興行としての作品価値は低かったのか、大阪で一館のみの上映だった。清けれど世は厳しい。

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ピラルク