劇場公開日 2021年4月9日

  • 予告編を見る

「雰囲気100点 脚本0点。」砕け散るところを見せてあげる 〓〓〓さんの映画レビュー(感想・評価)

2.0雰囲気100点 脚本0点。

2021年5月12日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

いやカギは下から渡せよ! ドアの下に隙間あんだろ! 上から手を差し伸べる演出わかったから早く次行って! 押し問答長い!

あ、もう散々言われてます? 失礼しました。

「ヒーローがヒーローでいるのに理由なんてあるか?」
理由いるわ!! なめんな!! スーパー戦隊すら理由持って戦ってんだぞ!!
原作は女性作家らしいが、この作者は『男はみんなヒーローに憧れてる』と勘違いしてないか?? ジェンダー観大丈夫か!??

あ、取り乱しました。失礼しました。

とにかくこの映画は、雰囲気だけそれっぽくて脚本として説得力がない唐突シーンが要所要所に目立つ。

まず『ヒーロー』と『UFO』の2つのキーワードが頻発するが、いかんせんこれらが喧嘩し合っていて上手いこと効果を発揮していない。
イジメやDVといった『確かに存在するのに他人から見えにくい不安感や被害のメタファー』として『迫り来るUFO』を表現しているが、何故か終盤で清澄が川に飛び込んで人を助ける『自分から首をつっこむ行為』に対してもUFOを持ち出しているので混乱を招いている。そこはヒーローじゃないの?

またそのヒーローというワードも唐突すぎて説明不十分である。主人公が何故困っている人を放っておけない性格に至ったのか、なぜヒーローにこだわるのか最後まで描写されないため、我が子が生まれる日に他人のために川に飛び込む行為が唐突すぎてまるで感情移入できない。かつて救えなかったヒロインの玻璃と川で溺れる子を重ね合わせるにしてもいささか強引に感じる。だって今再開したヒロインと結婚してんでしょ?
ヒーローの三か条として、悪を見逃さない、自分のためではなく人のために戦う、絶対に負けないの3つが頻繁に出てくるが、イジメやDVは『逃げる』が正解である。立ち向かってはならない。他人のイジメにあそこまで首をつっこむなら、それこそ清澄にヒーローへのこだわりにいたる経緯、困ってる人に固執する理由がほしい。

次に会話シーン。
別に会話シーンが長いのは良い。レザボア・ドッグスとか好きだし。要するにこの映画は、序盤にヒロインの玻璃が唐突に叫び声をあげることでただならぬ背景を感じさせたまま、ゆったりした会話劇に持ち込むことによって『漠然とした不安の中つかの間の安らぎを享受する』という切なくてもどかしい演出をやりたいわけだ。
ただその肝心の会話劇、セリフが非常にドン臭くてつまらないため『この二人が打ち解けるシーンなのはわかったから次行ってくれないかな』になる。おもちが2個だとか、おしるこがどうとか、クソつまらない会話が延々と続く。本来なら『いつまでもこの会話を聞いていたい…』になるはずなんだけどな。そうならないのは作り手のセンスなのでどうしようもない。1分数えるシーンとか痛すぎて見てられなかった。ラノベくさいなあ。

あとやっぱり気になったので書くけど、ずっとDVやイジメを受けていた子が唐突にペラペラ喋り出す。明らかに吃音みたいな演技させておいてその後普通に喋り出すところは完全にその類の障害を理解してない。仮に寒さでああなっていただけなら完全に演技指導のミスだ。

で、とにかく描写に説得力がない。冒頭にも書いたが、やりたい場面重視で人物の言動に必然性やリアリティがないのだ。私のように年に数百本映画を見る人からすれば、トイレのカギを下から渡さない時点でもう続きを見るに耐えないのだが、他にもある。
イジメられてるの分かってんだから毎朝おはぎ渡さないで昼休みに渡しに行って一緒にたべろやと思ったり、
清澄の友人が彼に対して「おまえがいないと退屈なんだよ」みたいなこと言うシーンは、友人にとって清澄がいかに重要であるか説明がないので唐突だし、
再び様子が豹変し泣き叫びながら立ち去る玻璃を見た尾崎の「理解したつもりだったのに私バカなのかな」みたいなこと言って泣き崩れるところ。これも唐突。『玻璃をもっと理解したいと考えるシーン』や『自分が他人への理解に長けていると過信するシーン』などの振りがないのでいきなりこんなこと言っても「どうしちゃったの急に?」である。一度イジメの庇い合いしただけでああはならんだろうし、そもそも尾崎が玻璃と初めて会話した朝からイジメをかばい出すのも唐突だ。原作ではちゃんと書かれてるのか? だとしたら省きすぎ。
とにかく全ての人物に対して『そういう考えや発言に至る経緯』の説明が不十分なので、全てがその場で思いついたシーンにしか見えない。

後半のサスペンスも、登場した玻璃の父親が最初から怪しすぎるためゴルフクラブでぶん殴るシーンの衝撃が弱い。清澄の母との会話は物腰柔らかく好印象じゃないとあの父親のサイコパス感が弱くなるだろう。車の謎バックもいらない。

良かったのはスーツケース引っ張り上げるシーン。あそこは衝撃的で最高だった。警察に連絡しないで真夜中にスーツケースを探しに行くアホ行動も目を瞑れる。あのどんでん返しでゾワゾワできただけでもましだったと言える。あそこなかったら虚無だよ虚無。

まあこんな感じで、この映画は基本的に適当に場面ピースを散らしてそれっぽく仕上げてるだけで、深いようで浅い。演出ありきで脚本はほとんど成立していない。なんつーかもっと上手い人が料理したらパラサイトばりの名作になってたんじゃないかとすら思う。残念きわまりない。

〓〓〓