劇場公開日 2021年4月9日

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「力演と怪演と見事な演出」砕け散るところを見せてあげる 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5力演と怪演と見事な演出

2021年4月16日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 終映後に思わず唸ってしまった。相当な力作である。面白い。とにかく面白い。中川大志の力演と石井杏奈の怪演によって、強引とも言える物語が力強く進んでいく。演出もあまり観たことがない不思議な演出で、冗長と感じるシーンもあったが、観終わって真っ先に思い浮かぶのがその冗長なシーンなのである。つまりそれが本作品の味なのだ。
 原作者の竹宮ゆゆこさんは我ながら不勉強にして存じ上げなかったが、大変な想像力の持ち主だと拝察する。石井杏奈が演じた蔵本玻璃のキャラクターが独創的だ。映画でもドラマでもこれほど独特な個性の持ち主は観たことがない。その強烈な引力によって悪も善も引きつける。対する清澄はごく一般的な常識人である。必然的にドラマは玻璃を中心に動いていくことになる。
 最小限の情報というか、清原果耶ちゃんと北村匠海くんが出演するというだけで鑑賞したのだが、それがよかった。事前情報がないほうが本作品をより楽しめると思う。主演の二人に加えて、井之脇海が演じた田丸が清澄の精神安定剤の役割を果たしていたし、清原果耶の尾崎(妹)は物語が転回するシーンのキーパーソンとなっていた。いずれも好演である。
 SABU監督の作品は初めて観たが、ありふれた人物が極限状況でどのように振る舞うかを描き出すことで、人間の不安や恐怖、そして優しさや勇気を浮かび上がらせるという見事な演出だった。それに応えた中川大志の演技が光る。
 石井杏奈は映画「ホムンクルス」では砂の陰唇のCGのイメージが強烈で、本作品でも序盤ではそのイメージが頭に浮かんだが、暫くすると、今度は映画「記憶の技法」の舞台挨拶で見た、オレンジのノースリーブのドレスを着た実物を思い出した。とてもほっそりとした美人である。念の為!

耶馬英彦