「無責任な隣人」望み U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
無責任な隣人
この物語には救いがなく…むしろ、上書きされていく価値観に悪寒が走る。
事件に巻き込まれた家族を描いていくわけなのだけれど、息子が加害者なのか被害者なのか?
冒頭なにも情報が揃わない内にパニックになる母親に疑念を抱く。あんなに取り乱すものなのだろうか?
女性の思考は分からないので違和感しかないのだけれど、導入こそしっかり描くべきではなかったのかと思う。尺的には100分少々…時間の猶予はあるように思う。
印象的なのは1日の長さだ。
様々な情報が錯綜し、振り回されるからこそなのだけど異常に長く感じる。おそらくならば、当事者としても終わらない1日の長さを途方もなく感じるのだろうと思う。
ホントに怖いなぁと感じるのはSNSの存在感だ。
根も葉もない噂だ。
どこの誰かが言い出したのかも分からない言霊だ。それに踊らされる人々。
もっと想像力を働かせられないのかと思う。その情報を鵜呑みにした後の影響を考えられないのか?
「ごめんなさい」で済まない状況がすぐそこにあるのだ。妹の人生もそうだし、社会的な繋がりもそうだ。疑心暗鬼に囚われるのは分からなくもなく、火のない所に煙は立たないという諺もある。
でも考えなきゃいけない時代だと思う。
それ程までに看過できない状況がある。
マスコミにしたってそうだ。
推定無罪の通念を知ってるのだろうか?
そこに思慮はなく、然るべき結果に沿った取材態勢にも感じる。目の前にいるのは、あなた達よりも戸惑っている人達だ。
…本当に、好奇心で殺される未来はフィクションではなくなる。今もその被害を受けてる人達は確実にいる。
そして、何より悍しいのは、あのSNSの炎上があったからこそ、あの家族は平静を装えたのではないのだろうかという可能性だ。
物語の結末は悲劇だ。
息子が犯罪に巻き込まれて殺された。
だが、母親はその息子に救われたと言う。
いや、違う。誰も救われてなどいない。
脅迫観念から抜け出せただけだ。
その脅迫観念は世間という有象無象から発せられた無責任な噂である。
外野が面白半分に垂れ流す、根拠のない正義だ。
工務店の社長は土下座して謝ってた。
一生その記憶は残る。だけど謝罪出来ただけマシなのかもしれない。
皆はどうだ?ケジメをつけられるか?
今はまだ名も無き犯罪に加担するべきではないと思ってる。
事件の全貌が公になった時の脱力感が印象に残る。
加藤雅也さんがというか、警察の対応が印象的だった。白でも黒でもない。少年犯罪は僕らが思うよりも繊細で闇が深いのだと思えた。
家族の開放感…アレは享受すべきなんだろうか?
ああなってしまう時世にそこはかとない不安を覚える。Twitterもやらない、ワイドショーを観る事もない俺には把握できない。
多数決の多数側の意見は正義ではない。
公共性のある情報ですら公正さを欠く。
コメンテーターっていう自己の仮説なり思考を、さも世論の代表であるかのように宣う輩のせいなのかもしれない。
少なくとも殺された我が子の死に「救われた」なんて感情を抱く親に共感できてしまうような社会ではいけない。
あの解放感を醸し出している家族に安堵するような社会であってはいけない。
醜悪な世相に真っ向から切り込んだ問題作だと感じた。