「残酷すぎる内容」望み ななこさんの映画レビュー(感想・評価)
残酷すぎる内容
母親も父親も妹も。帰ってこない息子のことが心配で一杯一杯すぎて目の前のことしか考えられないからこそそれぞれの人間の残酷さが強く表現されていた。
兄が加害者だったら自分の人生はどうなるのかと兄の心配より自分の心配をしてしまった妹。当たり前の感情であるがその残酷な自分中心的な感情を生み出してしまい一番ショックだったのは妹自身だろう。そこに追い討ちをかけるように母親の「お兄ちゃんが死んだ方がいいっていうの?」といったニュアンスの母親のセリフ。そんなこと言いたいわけないだろう。妹自身も苦しくて堪らないというのに。妹の心の叫びがひしひしと伝わってきて苦しかった。
息子が生きていてほしいと願うばかりに息子を疑ってしまう母親。これもまた残酷だ。息子を親が信じないで誰が信じるというのだろう。今回は息子が被害者だとはっきりしたが、もしこのまま彼が身元が発見されなければ、母親はずっと息子を加害者だと思い続けたのだろうか。最後まで己を通した息子の勇気は報われなかったのだろうか、ゾッとする。
数日前までただしくんの父親を人殺しを見るかのように憎み、罵り、恨んでいたもう1人の被害者の祖父がただしくんの葬式の時、父親に泣きながら謝っていたシーンが一番残酷だった。人は立場によってこんなにも態度を変えるのだ。まだ憶測だったというのに。
今回の映画はどっちに転んでも地獄だった。しかし何より一番地獄だったのはただしくんが被害者だった時一瞬でも安堵してしまったことだろう。息子が殺されているのに。
こんな地獄を生み出したのは紛れもなく世論だ。マスコミだ。マスコミの存在意義はなんだろう。真実を社会に伝える使命を掲げるがそれが新たな被害者を生む。加害者を攻撃していいのは被害者だけである。第三者が加害者を攻撃していい理由なんかない。世論が大きくならなければ息子が加害者ではないかと疑わなくて済んだのに。正義ってなんだろう。
長い間家を開けてごめんね、1人で旅行に行ってたよなーんていいながら平気な顔して帰ってきて欲しかったなあ、ただしくん。